研究室の飲み会で。

昨年末、生命誌研究館を訪ね、タンガニーカ湖とマラウィ湖の色とりどりの魚、カワスズメの展示を見て、2つの相反する感慨にうたれた。なぜ比較的短期間に、これだけ多様な魚たちが分化してきたのだろうか、その一方で、同じ種はなぜほぼ同じなのだろうか、の2つだ。

むろんこの問いには、遺伝子の保存性と変異を基本にした説明が返ってくるにちがいない。しかし、それって本当に正しいのだろうか。生物は正確な複製をする機械だと思うと、突然変異はエラーとなる。しかし日常感覚で見れば、生物(細胞)のような複雑なものがコピーを作るのは至難に見え、むしろ増殖するにしたがってずれてしまうほうが自然ではないかと思える。するとなぜ変わるかよりも、ほぼ同じ性質のものがどうして続いていくのかというほうが疑問に思えてくるのだ。

このような疑問に答えるように、いろいろな内部成分をもった細胞が増えていくときの様子を理論的に調べている。すると、増えた細胞が互いに影響を与えて、その性質が変化していくこと、さらにそれらが互いに性質の似たいくつかのタイプに分かれ、ついには中間の性質のものは存在しなくなってしまうことがわかった。今この理論をもとにして発生過程や進化をとらえようとしているのだが、ここで言いたかったのは、少し視点を変えただけで、新しい世界観が開けるということだ。

今の生物学は分子まで遡ることで生物の機械的側面をひきだすことに注目し、成功してきた。しかし、むしろ思い通りにならずに、ゆらぎ、ダイナミックに変化する生命にこそ私たちは心ひかれていたのではないだろうか。一緒に研究館を訪ねた大阪大学の四方哲也さんの実験とタイアップしながら、こうした生命の理論を作ろうと試みている。あの魚たちを見てうたれた感慨に到達できる日を夢みながら。

(かねこ・くにひこ/東京大学大学院総合文化研究科教授)