季刊誌「生命誌」通巻18号

BRH News

オサムシ進化の源を求めて — 中日合同学術調査

蘇智慧

1中国科学院動物研究所の前で。左から2番目が筆者。その右は、上野、井村の両博士。

2自然保護区に行く途中で。大きなトラックとぎりぎりすれ違う。

3保護区内ではパンダに会った!

4トラップをかけているところ。

5トラップにかかったシセンチベットオサムシ。

6アリストカラブス
(写真15=岡本宗裕、6=井村有希)
 これがあのアリストカラブスか!
 大の男が8人、トラップの中に入った1匹の虫を囲んで、目を輝かせていた。場所は、中国四川省、成都からチベットへジープで1日走らせたところにある蜂桶寨(フントンツァイ)自然保護区(宝興(パオシン)県)の山の中。
 アリストカラブス(Aristocarabus viridifossulatus )は、中国産オサムシの中でもっとも美しく、全世界のオサムシ愛好家のあこがれの種だ。まるでダイヤモンドを並べたような模様は、まさに生きた宝石と呼ぶにふさわしい。
 JT生命誌研究館では開館以来、オサムシの分子系統解析を進め、DNAに刻まれたオサムシの進化の歴史を次々と明らかにしてきた。似たもの同士が別々の場所で現れる「平行放散進化」や、日本列島の地史との関係など、予想を超えた面白い話題が次々と生まれた。
 そうするうちに、さらなる疑問が浮かんできた。そもそも世界中のオサムシは、どこから来たのだろう。オサムシの起源と進化を明らかにするために、世界のオサムシのDNA解析を開始した。
 オサムシの起源を考えるとき、とりわけ中国大陸は重要だ。オサムシ発祥の地と言われているからだ。ところが、中国にいるオサムシはサンプルの入手が難しく、珍品のグループばかり。
 ならば、自分で行って採ってやろう。ということで、冒頭にあるような、中国科学院との合同学術調査プロジェクトが結成されたのである。調査団の日本側メンバーは私のほか、井村有希博士、岡本宗裕博士、上野俊一博士、中国側メンバーは中国科学院動物研究所の周紅章博士をはじめ4人、総勢8人で、昨年(1997年)6月2日から約2週間、中国四川省の2ヵ所でオサムシの調査を行なった。じつは、四川省は私の故郷。オサムシが私の出身地から世界へ広がって行ったのかもしれないと思うと、遠征にもう一つの楽しみが加わった。
 調査した2ヵ所のうち、1ヵ所は成都の近くにある青城山という綺麗なところだったが、もう1ヵ所の蜂桶寨自然保護区に行くには、途中、保護区内にすむパンダと出会ったり、崖崩れのあとで危うく通れない道もあったりと、波瀾に富んだ道のりだった。しかし、約2200個のトラップを設置し、全部で52頭のオサムシを採取することができた。
 採れたオサムシの数自体は、けっして多いとは言えない。しかし、アリストカラブスや、今まで世界でただ1頭しか知られていなかったシセンチベットオサムシ(Neoplesius sichuanicola )など大珍品が採れたのは特筆に値する。また、オサムシ全体の系統を見るうえで不可欠である貴重なセダカオサムシが4種類採れたことも合同調査の大成果であろう。
 今回中国遠征で採集したオサムシの数十頭は、すでに同定され、DNAの解析結果も次々に出てきている。4種類のセダカオサムシのうち、2種類は新種と同定されている。なんと、派手で美しいアリストカラブスが、地味で黒っぽいチベットオサムシの仲間だということもわかった。近いうちに世界のオサムシの進化の全体像を報告することができると期待している。
(スー・ズィ・フィ/JT生命誌研究館研究員)
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