男と女、どこが違うだろうか。体の凹凸の位置?多少のバラツキはあるにせよ、これには間違いなく差がある。しかしそれだけではあるまい。心の内面にもやはり性差が存在する。その差は、男を好きになるか女を好きになるかといった相当「本能的」な面から、野球がうまいか編み物が得意かなんていう、ほとんど「つくられた」かにみえる行動にまで及んでいる。そしてこの「行動」をつくりだす脳はといえば、疑いなく遺伝子がになう情報によって、その基本デザインが決められているのだ。つまり行動の性差の秘密は遺伝子にあり、ということになる。

とはいっても、「男心」「女心」の分子遺伝学的研究へとまつしぐらに突き進むほどには、まだ世の中、成熟していない(また、してほしくない、という気もチラッとするのだが……)。まずは、手頃な実験動物を使い、行動の性差、脳の性差、そして遺伝子という3つのキーポイントをつなぐ因果をたぐることになる。

そこで登場するのがキイロショウジョウバエである。これなら遺伝子を一つ一つ壊して行動がおかしくなった突然変異体を探す方法で、「遺伝子」と「行動」を結びつけることができる。というわけで、私たちはもっとも歴然とした性差がみられる性行動に着目して、そこに異常の現れる変異体の探索に乗り出した。そしてついに、「男を好きになるか女を好きになるか」というハエの「心理」に関わる遺伝子を突き止めた。satoriと名づけたこの遺伝子が壊れるとオスはメスにまるで求愛しなくなり、かわって他のオスに対して盛んに求愛するようになる。この遺伝子は脳の触角葉という場所に発現しているが、フランスの研究者によると、オスのここだけをメスに「性転換」すると、オスがオスに求愛するようになるという。

こうしてどうやら、行動の性差、脳の性差、そして遺伝子をつなぐ糸がおぼろ気ながら見えてきた。私たちはsatori遺伝子を、性決定ルートの末端管理者と見なしているのだが、この仮説の真偽は今進行中の遺伝子クローニングの結果が教えてくれるだろう。

(やまもと・だいすけ/新技術事業団山元行動進化プロジェクト総括責任者。三菱化学生命科学研究所主任研究員)