季刊誌「生命誌」通巻2号 
シロイヌナズナに見る根の成長の遺伝子コントロール:岡田清孝
シロイヌナズナに見る根の成長の遺伝子コントロール
シロイヌナズナに見る根の成長の遺伝子コントロール:岡田清孝
植物の根は必ず下へ下へと伸びていきます。根は重力の方向をどのように感知し、自分の伸びる方向をどのようにコントロ一ルしているのでしょうか。基礎生物学研究所(愛知県岡崎市)の岡田清孝助教授が、根の成長の本質に迫ります。
 動物と違って植物には神経機構がない。しかし、葉っぱが細菌などによって病気に冒されると、別の葉で防御の遺伝子がはたらきはじめ、やがて植物全体に広がっていく。遠く離れた細胞と細胞同士がどのようにして情報を交換しているのだろうか。植物における情報伝達機構は、ほとんどわかっていないのが実情である。
 植物の根は重力の方向に伸びていく。重力を感じるのは根の先端部と思われるが、伸びる部分はそこから細胞数にして20〜30個分離れた伸長域である。先端部が感じた重力情報は、なんらかのかたちでこの細胞を通じて伸長域へと伝達されなければならない。私たちは、正常に根が成長できないシロイヌナズナの突然変異体を作り、根の成長がどのような遺伝的プログラムによって制御されているかを調べている。
野生型のシロイヌナズナの根(図版左端-1)と、さまざまな突然変異体
-1  45度傾けた寒天培地を、野生型のシロイヌナズナは波状に伸びていく
-2  重力屈性に異常が起きた突然変異体では、根はぐるぐると輪を作る
 45度傾けた寒天培地でシロイヌナズナを育てると面白いことがわかってくる。根は真下に伸びようとするが、寒天が石ころのような障害物の役目を果たすので、避けようとして回転運動を起こす。結果として根の最先部が6時間ごとに右、左と回転して、波型に伸びていくことになる。
 しかし、突然変異体はぐるぐると輪のように回ってしまったり、そのまままっすぐ伸びつづけてしまう。外界の変化に合わせて、根を正しい方向へ誘導することができなくなっているのである。
 根の成長には、少なくとも六つの遺伝子が関与していることがわかっている。このうちwav1に異常が起きると、障害物を避けられたくなったり、光屈性がおかしくなる。wav5に異常が起きると、重力屈性がおかしくなり、障害物回避にも影響がでる。根では、物理的刺激に反応する機構が、いくつかの遺伝子によって支配されていると思われる。
 刺激の強さ、刺激のくる順番など、根はいくつかの情報を総合して、どの方向に伸びるべきかを決定しているらしい。先端の微小な環境の変化がリアルタイムで伝わる、精巧な情報伝達システムがあることは間違いないだろう。根が正常に伸びない突然変異体は、先端部のセンサー異常によるのだろうか、それとも情報伝達系の異常によるのだろうか。それは今後の研究を待たなければたらないが、動物とは異なった植物独自の情報伝達システムが明らかになると期待している。
 重力屈性に異常が起きた突然変異体の根の先端部が輪を作っていく様子  高倍率の顕微鏡で根の成長を見ると、根が曲るときには外側の細胞が伸び、内側の細胞が伸びを抑えて、ねじれながら成長していくのがわかる
(写真はいずれも、岡田助教授による)
(おかだ・きよたか/基礎生物学研究所助教授)
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