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Lecture

生き物さまざまな表現

生命科学の世紀へ:佐藤勝彦(東京大学教授・宇宙論)

私の専門は宇宙論である。宇宙がいかに生まれ、どのように進化し、今日の豊かな構造を持つに至ったかを研究する学問だ。研究を進めるうえでの道具は、地上での実験などで確かめられた物理学の法則である。あらゆる存在は宇宙の始まりの時点で定められた初期条件のもとに物理法則に従って運動しているわけで、 現在にいたる宇宙進化のシナリオを物理法則の必然として描き出そうというわけである。

私が生命に強い興味を持っているのは、実はこのような単純な思考だけでは生命は理解し得ない存在だからである。私たちは物理学の法則に従って運動している機械であると同時に、自分の意志で自分の行動を決めている。この矛盾は自然哲学の昔からの問題で簡単に解けるものではないが、この自由意志は35億年前に単細胞生物として生まれてからの長い進化の歴史の中で獲得したものである。一説によれば、地上には1億種に近い生物がすんでいるという。H、C、N、O という宇宙ではありふれた元素を材料に、自然選択を通じてこのような多様で豊かな生物世界が実現している。個々の生命を見るならばそこには自然の試行錯誤の歴史が刻まれている。生命誌という言葉で表現されているように、多様性と歴史を抜きにして生命は理解できない。

(撮影 = 山口 進)

私は21世紀は生命の科学の時代だと信じている。20世紀は物理学に基礎をおいた科学・技術革命の時代であったが、21世紀は生命科学の進歩によって人間社会が大きく変革される時代となる。生命の物語を読みとって、新しい文明を創出しようという生命誌研究館の役割は大きい。


※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。
 

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