サマースクール 2010年度の報告

DNAから進化を探るラボ
「DNAの塩基配列を比較して生きものの進化の歴史を探ってみよう」

私たちの研究室では、ここ数年「DNAの塩基配列を調べて生きものの進化の歴史を探ってみよう」というテーマのもとで、スクール生の皆さんに短期間の研究生活を体験してもらってきました。研究というと、研究目的の設定、実験作業の実行、実験結果のまとめと解釈、結論と報告までの一連の過程が含まれます。今年もこれら一連の過程をすべてサマースクールのプログラムに組み込みました。研究の目的は、クマゼミ、マルカメムシ、セグロアシナガバチ、クロミバエ、ムシヒキアブという5種の昆虫の系統関係を明らかにすることでした。これら5種を研究材料にしたのは、ハチ、ハエ、アブという3者の関係は一般的にあまり分からないのではないかと考えたからです。セミとカメムシを加えると、5種の関係が一層混乱しそうで、DNAの塩基配列を調べて比較すれば、それらの系統関係がチャンと分かるよというのは今回のサマースクールの狙いです。

実は研究材料を選ぶ過程で、ちょっとだけのエピソードがありました。本来オサムシを加えて6種の昆虫を調べる予定だったが、直前になって1人のスクール生は体調が崩れて参加できなくなったために、5人になったので5種に変更したのです(1人のスクール生が1種の解析を担当)。結果的には5種になって都合が良かったのです。というのは予備実験で6種の系統樹を作成したところ、予想した系統樹が得られなかったからです。ハエ類の18S rRNA遺伝子(今回使用したもの)の進化速度が速すぎるのがその原因でしたが、直前になって材料の変更と採集は難しい状況でした。ちょうどその時に1人キャンセルの情報が入ったのです。6種の中でオサムシを削除すると、系統樹は予想したものになりました。なぜこのようなことが起きるかは専門的な説明になるので、ここでは省略させて頂きます。

最初は、スクール生の皆さんに5種の昆虫の系統関係を形態から予想してみてもらいました。皆さんは真剣に考えて系統樹を描いてくれました。系統樹を予想した理由として、皆さんは羽の形や、光沢、餌、匂いなど様々な特徴をあげたので、かなり本質のところを取られたことにちょっと驚きました。そのためなのか、系統樹はそれぞれ異なっていたものの、思ったより正確な部分が多く、完全正解の系統樹も一つありました。その後の実験作業は、DNAの抽出からPCR法による目的DNAの増幅、オートシーケンサーによるDNA塩基配列の決定、系統樹の作成まで、研究室のスタッフとマンツーマンで行いました。最後の結果まとめと報告は完全にスクール生の皆さんに任せましたが、どうもマンツーマンとノータッチのギャップがちょっと大きかったようです。しかし、最初に少し戸惑っていたものの、元物理の先生のリーダーシップのもとで、残りの30分間の間に立派なポスターがすらすらと完成しました。発表も無事終わり、サマースクール終了後もまたラボに戻って延々と楽しく語り合っていました。

最後になりますが、スクール生の皆さんの感想もぜひ見て頂きたいと思います。特に1人の方はこの二日間の体験を漫画でそのまま再現しているので、楽しく見ることが出来ると思います。

蘇 智慧(研究員)

参加者の感想

生きものに対する感動がなによりも大切

参加者:S.M.

遺伝子の塩基配列を調べることは、まさに時間とのたたかいでした。緊張感で汗をかきながら、決まった手順で細心の注意を要する操作に取り組みました。苦労の結果、遺伝子の塩基配列がコンピュータの画面上に表示されたとき、生きもののもつひとつの秘密をみた思いで感動しました。サマースクール参加の目的は、生命科学の本を読み進めていくとき、なかなかイメージがつかめない遺伝子の実験を自分で体験して、遺伝子のイメージをもっとふくらませることでした。この目的は十分に達成されました。自分で器具や機器を操作し、結果を出すことで、抽象的であった遺伝子という概念が少しずつ具体的な身近なものになった感じがします。今後は、本を読んでも「あのときはこういう操作をした、こういう機器を使った」と、サマースクールでの経験を思い出すことで、理解がずっと進んでいくことでしょう。

さらに、このサマースクールでは、思わぬ副産物もありました。それは、ラボの先生方の研究に賭ける情熱の一端に触れることができたことです。珍しい生活史をもっている昆虫をつかまえてきて、育てていました。その昆虫を見せ、説明するときの先生方の生き生きとした表情は、生意気をいうようですが、生命科学の研究者には生きものに対する感動が何よりも大切であるということを実感させてもらいました。サマースクールの2日間、生命誌研究館のすべての研究者や職員の方々から暖かい歓迎を受けたことは、忘れることのできない思い出となるでしょう。今後も機会を見つけて、生命誌研究館を訪れ、「いのちの不思議」を体験してみたいと思います。

やったことのすべてが初体験

参加者:S.K.

普段なら絶対にできないような体験をたくさんさせてもらいました。ぼくはこの事について殆ど何も知らなかったので、果たしてやっていることが理解できるものかと心配していたけど、とても親切に教えてもらえたので(難しい所はあったけれど、)よく理解できたのでよかったです。やったことの全てが初体験だったので、とても楽しかったです。

また、研究員の人たちはとても優しく、親切で楽しい人ばかりで、沢山話をしました。普段僕の周りには話(主に魚の話)があう人がいないので、とても久しぶりに思いっきりしゃべれ、本当に、とっても楽しい時間を過ごせました(この夏一番の思い出です)。また生命誌研究館にも行きたいし、できればまたサマースクールやその他の行事にも参加したいです。ありがとうございました。

DNAって、もどかしい

参加者:Y.S.

まるで夢のように、あっという間だった2日間のサマースクール。私は、息をつく暇もなく、また日常の生活に戻り、溜まった仕事に追われる慌しい毎日です。私が参加させていただいた「DNAから進化を探るラボ」の皆様、当日は細やかな準備と丁寧なご指導、本当にありがとうございました。また、サマースクールを通しての写真も、たくさん送っていただき、お忙しいなか、暖かな心遣いに、心から感謝しております。自分では実験に集中することが精一杯で、写真は撮れませんでしたので、とても嬉しく、大切な宝物です。

さて、今回のサマースクール参加で、ようやくDNAというものと向き合った気がします。ここ数年、仕事でDNAを扱うようになっていた私ですが、私は研究員ではありません。一般職として業務をこなしているだけなので、専門知識がないまま、漠然と作業をしているのです。それは、モヤの中にいるようなものでした。ただ、そういったDNAの定型業務は、多くの研究機関で一般職の軽作業だということで、知識は必要ないと言われていました。だけど、私には、本質の意味を追求できない自分の立場に、悔しさを覚えていたのです。

それでは自分で勉強しよう。DNAの話題が飛び交う昨今、普通の本屋さんでもDNAの本は数多く置かれています。手に取れば、その未だ見ぬ世界に、私は引きこまれていきました。知れば知るほど、解ったような、ますます解らなくなったような、不思議な気分になるのです。それが、おもしろいこと、おもしろいこと。子供の頃、捕まえた虫を眺めていたように、DNAを見てみたい。だけど、DNAは捕まえて見ることができない。DNAって、もどかしい。

そんな想いを募らせ参加した今回のサマースクール。仕事でも同じようなことをしているのに、まったく新鮮に感じられました。それは、目的、流れ、原理を順序立って説明していただいたからに、他ならないと思うのです。そして、なにより、私がやったことのないシーケンサーを使っての塩基配列の決定は、鼓動が高鳴る体験でした。色とりどりの波形と配列。印刷して現されたデータは、実際には目に見えないDNAを、あたかも捕まえて標本にして見ているようです。と同時に、ラボの皆様の会話から、その過程には計り知れない苦労があってこそだという、DNAの歴史を多少なりと実感することができたことも、たいへん勉強になりました。

日々、私がDNA分析をする時には、決められたマニュアルに沿って決められた試薬を決められた方法で進めていきます。その、方法と結果に至るまでの歴史の過程には、おそらく大勢の人たちが膨大な時間をかけて、携わってきたのだと想像されます。今回、最先端のDNAの開発をなされている現場を、ほんのわずかでも経験させていただいたことで、今、私が仕事で行っている作業にも、多くの方の努力と長い時間の流れを感じながら、仕事ができるようになりました。

日常の生活に戻り、仕事に追われる毎日ですが、それは、今までの日常ではなく、新しい日常となって生まれ変わりました。DNAはもとより、生物という神秘的な限りない世界に、今まで以上に目を向けて、さらに勉強し、柔軟な発想で、人生をもっともっと楽しみたいと思います。いつか私も、びっくりするような大発見ができたら、幸せです。

ぐっと身近に感じられるようになりました

参加者:S.I.

今回「DNAから進化を探るラボ」に参加させて頂けて、本当に良かったです。高校の授業では、DNA、塩基配列など断片的な知識でしか分からなかったミクロの世界が、昆虫のDNAの系統関係を探る実験によって、ぐっと身近に感じられるようになりました。実験は、研究室の方に付き添って頂き、分からないことも丁寧に教えてくださいました。最終的に昆虫のDNAの塩基配列を読み取るのが成功したのも、分かりやすい指導があってのことでした。こんなすばらしい経験は中々出会えないだろうと思いつつ、自分の未来に確実に生かしていきたいとも思っています。貴重な経験をさせていただきました。本当にありがとうございました^^

感想を漫画形式にしています。

参加者:M.K.

私のような門外漢には、サマースクールでどんなことをするのか?

どんなヒトがくるのか? どんな雰囲気なのか? という部分が、去年までの例をみても、伝わりにくいので、こんなやり方をする人がいてもいいかなとやってみた次第です。

漫画をダウンロード(PDF形式:652KB)

これまでのサマースクール

  • 2017年度
  • 2016年度
  • 2015年度
  • 2014年度
  • 2013年度
  • 2012年度
  • 2011年度
  • 2010年度
  • 2009年度
  • 2008年度
  • 2007年度
  • 2006年度
  • 2005年度
  • 2004年度
  • 2003年度
  • 2002年度

ページの先頭へ