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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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トマトの美味しい季節に

2019年9月2日

小山 朋香

私が小さい頃のことです。昭和初期に撮られた写真の、古いアルバムが我が家にありました。祖父の祖母にあたる人や、その家族だと、父に教えてもらいました。誰ともお会いしたことはありませんでしたが、何故かとても惹き付けられた私は、その人達を見つめ続けました。幼心に、なにを思っていたのでしょうか。

それからずいぶん経ち、今年からお仕事を始めた生命誌研究館で、私はオサムシの標本を眺めていました。『自然の中で時間を紡ぐ生き物たち』の展示です。生きものの進化と大陸の移動が関係している、という壮大な研究結果で、私はこの展示が大好きです。何千万年も前に、飛べないオサムシはプレートテクトニクスや地形の変化によって地球上に広がり、種が分かれていきました。展示の最後では、オサムシが移動した地球上の道のりと、我々人類が出アフリカ以降歩いてきた道のりを重ねることができます。遠い昔に起こった出来事ですが、それは今ここにいる私にも繋がる歩みなのです。私も当館のオサムシ標本も、大冒険の末にここにいると思うとつい、展示の前にずっと佇んでしまいます。そして過去に通じるトンネルの中にいるような気分になり、ふと手を伸ばしたくなるのです。

今思えば、この太古を思う気持ちと、古い写真を見た幼い頃の気持ちは似ている気がします。私は祖先の写真を介して遠い時間を覗き、その上に現在の自分を重ねていた、と思うのです。会ったことのない人々だけれど何十年後、父や自分に繋がる家族です。写真自体は色あせ、薄っぺらなものですが、見つめるほどに分厚い歴史を感じることができます。また、普段は意識しない、自分の中にある物語や広がりが、実はたくさんあることを知ります。

当館でご紹介する生命誌は、とてもとても長い38億年のお話、大長編です。ものによっては大昔のことですので、自分には関係のない話かな? そう思う人がいても、無理はありません。でも、よくよく生き物の話を聞いてみると…例えばDNAのしくみは、すべての生き物に共通しています。またはヒトの系統樹を見ると、わずか数万年前まで、ホモサピエンス以外の人類もいたというのです。38億年もありますので、物語の数は尽きませんが、どれか一つでも、気になった展示をゆっくり眺めてみてください。この時、テスト勉強のように「覚えなければ」と考えなくて良いと思います。展示は生き物みんなの、いわばポートレートですから、楽しく見て過ごしてください。

でも、いきなり大量の「写真」を見せられても、どうしたらいいか困るかもしれません。そんなときは、展示案内をスタッフが行っていますので、どうぞ気軽に参加してみてください。私は展示案内を担当してまだまだ日も浅いですが、皆さんと一緒に楽しい見学時間を過ごせたらと思っています。ぜひ、ご家族や仲の良いお友達を誘ってお越しください。

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