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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【当たり前が特別になる場所】

2016年3月15日

馬場 翔子

2月に研究室見学ツアーがありました。来場者のみなさま、ありがとうございました。スタッフのみなさま、お疲れさまでした。天気が雨だったせいか、いつもよりぐんと家族連れが多く、館内が賑やかでした。私の父親も初めて参加し、ラボ前での研究紹介や1階の展示ホールを見て帰ってくれました。家に帰って感想を聞いてみると、水槽いっぱいのナナフシ達やイチジクコバチのオスの一生について楽しそうに話してくれました。「イチジクコバチのオス、あれ、悲惨やな、最近は人間も女性の世界や」なんて言っていましたが、仕事等でいろいろと思うところがあるのでしょうか。

私事ですが、この春で就職するため、展示ガイドを卒業することになりました。私は生き物が好きなことに加えて、生命科学の研究や考え方、研究者が好きでこの分野に入り込んだ人間です。生命誌や非常に専門的な展示内容について正確にわかってもらうにはどうしたらいいのだろう?と最初はそればかり考えていました。でも次第に、同じ展示を説明しても見る方によって全く反応が違っていること、自分がずっと当たり前のように勉強してきたことが当たり前ではないことに改めて気づかされました。その後は、内容の正確さ、ではなくて、少しでも何か家に持って帰ってもらえるよう、反応を見て話す内容を変えてみたり、できるだけ質問を引き受けるようにしました。DNAってなんだ、遺伝子鑑定ってなんだ、ウイルスは生命じゃないのか、本当に祖先生命体1種類から全ての生物は進化したのか、この間テレビでネアンデルタール人とホモサピエンスの違いはDNAたった1文字だと言っていたのだがそんな訳ないだろ、などたくさんの質問を頂きました。

生命科学はここ数十年で一気に発展してきた、そして今後もその進歩は凄まじいであろう分野です。ようやく最近になって高校生の教科書に詳細な記述がなされるようになりましたが、生命科学を学んで来なかった方が圧倒的に多いのが現状。そんな中で、医療だ、健康だ、日常生活の中で生命科学の知識の必要性を感じ、学問と技術の進歩に少し戸惑っておられる様子が垣間見えました。それと同時に、ご自分の専門や経歴関係なく、自分という生き物について、他の生き物についてもっと知りたい、と感じていらっしゃる方が多いように私は感じました。

展示ガイドを聞いて、展示を珍しがって楽しんでくださるのが、ガイドのモチベーションでもあり、生命科学分野の一学生でもある私にとって、研究へのモチベーションにも繋がっていました。昨今の研究不正問題や大学教育改革といった研究環境をめぐる様々な問題や中々思い通りに行かない研究、想像以上の成果主義社会に何とも言えない思いを抱えていました。でも、生き物っておもしろいね、と言ってもらえたり、小学生の男の子とちょうちょのトランプで真剣に遊んだり、食草園でチョウの幼虫を探して触ってみたり、恥ずかしがり屋のえんぴつくん(肺魚)が呼吸をする様子を30分以上待っていた高校生の男の子たちに出会ったり。BRHでの出会いやコミュニケーションを通して童心に戻り、サイエンスって楽しいな、と思い続けることができました。

こんなに広い年齢層の方々とひとつの事柄に関して話をさせていただくのは初めてで、本当に貴重な経験になりました。2年間ありがとうございました!

[ 馬場 翔子 ]

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