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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【物語と織物】

2015年12月15日

藤井 文彦

年4回発行している季刊『生命誌』には、重鎮の先生方が研究人生を語るサイエンティスト・ライブラリーと若手研究者が最新の研究を紹介するリサーチ、そして中村館長が著名な方と対談するトークのコーナーがあります。これまで前者2つを主に担当してきたのですが、一度だけ、非線形科学をご専門とされる蔵本由紀先生と中村館長とのトークを担当しました。実は蔵本先生の大ファンで、お話を間近で聞けたのはとても嬉しいことでした。季刊『生命誌』編集の醍醐味です。

その対談の中で、物語の重要性が話題になっています。「科学は自然の事実記述、物語は心の事実記述」という下りは、特に胸にすとんと落ちました。確かに、2歳になった我が子の言語習得過程を観察していると、身の回りにあるものの名前を知ってカテゴリー分けし、次にそれらをつなぎ合わせて物語を彼の中で築いていっているようです。それに合わせて好む絵本も、モノが羅列された単純な内容の本から、物語性をもつような本へと移っています。音読してやると、膝に座って絵本を見つめながらじっと物語に耳を傾けています。

さて、1月5日に新しくお目見えする、「生きている」を見つめ「生きる」を考えるゲノム展。略して「生き生きゲノム展」。科学的な事実に基づいてゲノムの歴史を記述することに加え、ゲノムからみた生きものの物語も活き活きと表現できればと思って挑みました。そして「個体の時間と進化の時間」、「垂直伝播と水平的な伝播」、「ゲノムとエピゲノム」というちょっと難しそうな並立概念を、重層的に空間に実現するに至りました。(詳細はこちら)。

その中で、「垂直伝播」は皆さんもご存知の親から子へのゲノムの伝播、「水平的な伝播」は細菌間での遺伝子の水平伝播、バクテリアが内部共生したあとにオルガネラから核への遺伝子移行、受精後の雌雄のゲノム間での組換えなどを扱っています。親と子、そして別の個体間を、あたかもゲノムが経糸(タテいと)と緯糸(ヨコいと)のように織りなしているかのように感じます。展示では特に、ヨコのつながりを感じてもらいたいと思いましたがどうだったでしょうか。そこは、ご覧いただいた方々の感想を待つしかありません。

ところで、先の対談の中で中村館長が「物理学からゲノムを考えていただけないかなと思っているのです」とのお願いに対し、「大変な宿題をいただきました」と蔵本先生。スケールの違うミクロとマクロの自然を、経(タテ)につなぐ数理科学が統計力学。非生物と生物など一見異なる原理ではたらく自然を、緯(ヨコ)につなぐのが非線形科学。経緯(タテヨコ)につながるゲノムについて、蔵本先生からどのようなお考えをお聞かせいただけるのか、次の楽しみでもあります。

[ 藤井 文彦]

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