1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【交差する人生】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【交差する人生】

2015年9月1日

藤井 文彦

僕の実家にある長さ1m足らずのこの手押し車は、なかなかの優れものです。普段は子供を寝かせたり、車輪がついているので、乗せてコロコロ遊ばせてやったりもできます。そして、まん中から外側へ向けて折り畳むことができ、そうすると小さな児が座る椅子にも早変わり。

頑丈そうに見えて、実はこの手押し車、とても古いものです。父が子供の頃に使い、僕が使い、そして息子が使っていますから、親子三代にわたって90年近く使い続けています。さすがに布の部分はかなり傷んできたので、母が息子のためにと一生懸命に直してくれました。それを感じてか、実家に帰るたびに息子は必ず乗り込み、ひとしきり遊びます。大人は屈んで車を押すことになりますから、長い時間遊ばせてやると少々疲れます。けれども喜ぶ子の顔を見ては、もう少しという気も起こります。

そうやって、喜々として息子を遊ばせていた父も、今年の初夏にこの世を去りました。最初はこの車の中で寝ていた息子は、車の端をもって起き上がり、そのうち立ってこの車に乗り込むようになりました。片や父はというと、徐々に体力がなくなり、逝く半年前から床に臥す時間が長くなりました。父と息子の人生が、この車を軸にして、なんだか交差していくような、そんな時間でした。

ふとこの車を思い出したのは、いま手がけている展示製作と重なったからです。これまでに創った展示の良い部分や、まだ使える部品をまた使えないか。願わくば、この展示を見た児が、また自分の子を連れて見に来てほしい。そのためには、もちろん古くならないコンセプトをもちつつも、更新していく仕掛けを内包させたい。そう思い続けて案を練っていますが、なかなか難しいものです。

[ 藤井 文彦 ]

表現スタッフ日記最新号へ