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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【開いているか、閉じているか】

2015年8月3日

平川 美夏

生命誌研究館では、さまざまな研究分野のかたをお招きしてセミナーを開催しています。催しとして多くのかたとご一緒したいのですが、講師のかたがご多忙で直前まで予定が決まらず、急な変更もあるので、館内のメンバーが中心でお話をうかがい、ディスカッションさせていただいています。最近印象に残っているのは、季刊生命誌84号のTALKにご登場いただいた蔵本由紀先生のセミナーと研究館の非常勤顧問の西垣通先生のセミナーです。お話が興味深かったことはもちろんですが、生命についてさまざまな視点から考え直したくなりました。

蔵本先生のお話は記事をお読みいただくとして、ご専門の非線形科学では非平衡開放系に注目します。とても簡単に言ってしまうと、コーヒーに混ぜたクリームがやがて均一になるようにだんだんと平均化に向かい逆はおこらないが、なぜ自然はだんだんに単純化してしまわないか、という問題です。非平衡開放系では対象が開放系ならば、エントロピーを放出し続けることで動的で非均一な状態をつくり続けられるのです。もちろん生命も非平衡開放系の一つと考えます。

西垣先生は「基礎情報学」という一見大学の講義のような名前ですが、とても独創的な考えを提唱しておられます。同名のご著書が発表された当時から何度となく手にとってはここから何か発想できないかと考えてきました。「基礎情報学」では、生命システムをオートポイエティックシステムと考え、自律した閉鎖システムとします。機械的に振る舞う対象をむしろ開放系として、それを観察する上位の階層による認知によって「情報」を定義しています。

この2つのお話からは生命に対して開放系か閉鎖系か真逆な考えが示されました。非平衡開放系は熱力学からの視点、「基礎情報学」は情報からの視点であり、両方の分野でエントロピーが使われ始めたときからさまざまな解釈がされていますので、生命の視点から調べてみたいと思いました。生命起源の考えにも「代謝(エネルギー)が先か」、「情報(複製)が先か」という論争がありますが、同時平行であるならと仮定する発想に移ってきています。どちらが正しいではなく、視点の異なる複合的な見方から生命の本質が描けたら面白いなと考えています。

[ 平川 美夏 ]

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