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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【痛みをともなうバイオミネラリゼーション】

2014年8月1日

藤井文彦

例えばエーゲ海をのぞむサントリーニ島に降り立つと、紺碧の空と海を背景に白壁の家々がとても綺麗に並んでいます。壁の材料になっている白の石灰(CaO)は、炭酸カルシウム(CaCO3)を含む石灰岩を焼いて二酸化炭素(CO2)を放出してつくられます。生物を起源とする石灰岩は、約5億年前のオルドビス紀、3.5億年前の石炭紀、そして1.5億年前の白亜紀に海生生物の死骸が深海底に降り積もって出来たものだそうです。その中には、微古生物学の祖と呼ばれる博物学者・クリスチャン・エーレンベルクよって初めて見出された、小さくて美しい微化石が点在しています。現在のバイオミメティクスと呼ばれる模倣技術を使っても、到底真似できない美しく精巧なものです。

有孔虫などの小さな微生物は、その美しい造形美を、カルシウム(Ca)などの無機物と少量の有機物の複合体として作り上げていきます。いわゆるバイオミネラリゼーションと呼ばれる作用です。もちろん私たちヒトの体内でも、有機高分子の1つコラーゲンを鉄骨代わりにして、コンクリートのようにリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)を自己組織化的に成長させ、骨や歯がつくられます。例えば骨部分では、骨芽細胞と破骨細胞が作ると溶かすの絶妙のバランスを保ち、体を支えるために必要な骨を形づくっているのです。

一方で、本来は必要でないバイオミネラルもあります。腎臓から膀胱にかけて泌尿器系に出来る結石です。主にシュウ酸カルシウム(Ca(COO)2)から出来ており、時には1.5cmにも成長するそうです。腎臓から膀胱へ至る尿路の直径が約0.5cmですから、それこそ結石が通過する時には、「痛みの王様(king of pain)」と呼ばれる激痛をともないます。そして不運にも、私もこの夏にking of painを2回も経験してしまいました。あまりにも痛かったので、2晩連続で救急車のお世話になりました。授乳を続ける家内は自分が哺乳類だということを実感しているそうですが、私は微生物から脊椎動物までが備える根源的な営みを、痛みをともなって経験したのだと語っています。痩せ我慢で。

[ 藤井文彦 ]

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