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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【生きる=歳をとること。】

2012年12月17日

前田真希

みなさんこんにちは。生命誌研究館で展示ガイドをしている前田真希と申します。私の住んでいる京都では、先日初めて本格的に雪が降りました。毎日寒いですが、風邪などひかれたりしていませんか?

さて、先日誕生日を迎えた私は、同世代の友人と「また一歳、年をとってしまった」などと冗談を言っていました。昨今の社会でも、「アンチエイジング」など老化予防が流行し、老いを毛嫌いする風潮が目立っています。また、特に男性にいたっては、とにかく若い女性がいいようです…。

実際、皆さんもご存知のとおり、身体は年齢とともに衰えていきます。例えば免疫系で働く「胸腺」という臓器は、歳とともにだんだん小さくなり、80歳ぐらいの人ではほぼ脂肪に置き換わってしまって痕跡程度にしか残っていないそうです。この「胸腺」では、免疫を司る細胞に対して、「自分と異物を見分ける」教育が行われます。それによって、自分の細胞を攻撃することなく、体内に侵入した異物だけを攻撃することが出来ます。

ところが、歳をとるにつれてそのような機能が衰えてしまい、「自己」の成分に対してもある程度反応してしまうようです(『免疫の意味論』多田富雄著)。それがひどい場合には、リウマチなどの病気になります。やはり、生き物という複雑なシステムをずっと維持していくのは、並大抵のことではないのでしょう。

このような話を聞くと、歳をとることが怖くなってしまい、いつまでも「健康でみずみずしく」ありたいと感じてしまいます。しかし、なんといっても、歳を重ねることすなわち生きること。歳をとることを嫌がり否定することは、生きることを否定するのと同じであるように私には思われます。身体がだんだんと衰えていくのは、全ての生き物に共通であり、生きることの宿命です。それならば、徐々に機能が衰えていく身体と向き合い、そんな自分を受け入れたい。そしてそんな身体とともにうまく時間を積み重ねて、豊かに生きるすべを見つけられたら、と思います。

もしかすると、身体が否応なく衰えていく、その実感というのは、「自分の命には限界がある」ということを暗に教えてくれているのではないでしょうか。故スティーブ・ジョブズ氏が「明日死んでも後悔しないように今を生きる」と言っていたように、死を免れることのできない私たちは、逆に死を実感し意識することで、豊かな生を生きることが出来るのかもしれません。

[ 前田真希 ]

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