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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【3つの舞台】

平川美夏 学生の頃から好きだった劇団第三舞台が次の公演を最後に解散します。座布団敷きのテント小屋での手作りの芝居から、都心の大劇場の豪華なステージへと成長していくのを頼もしくも少し寂しい気持ちで応援したのも懐かしい思い出です。第三舞台という劇団名ですが、スタッフとキャストで作る第一の舞台、第二舞台は観客席、第三舞台は第一と第二の舞台が共に作る幻の舞台という意味が込められています。SCIPの仕事も同じだと最近気がつきました。
 例えば季刊生命誌のリサーチでは、研究の内容や研究への姿勢を表現することを通じて研究者の方々と協同作業を行います。また、BRHカードのカバーやおまけ作りも、作ろうとする生きものの専門家から見ても納得のいくものになるように協力をお願いしています。実際の形に仕上げる工程では、ペーパーエンジニアの坂さんや四季デザインさんたちの手を借ります。多くの人と力をあわせて作る第一の舞台です。
 こうして作った表現物は、カードとして、インターネットを通じて、また研究館では展示として、広く館外の皆さんと共有します。生命誌の観客は、とくに年齢も背景も問いません。生命科学に興味を持ち、生命誌を楽しんでくださる方だれもが第二の舞台の参加者です。
 さて、科学を伝えることはふつうに考えれば、わかっていることを教え、理解してもらうことですが、生命誌の考えは少しちがいます。もちろん内容の正確さには細心の注意を払っていますが、生命誌を考える媒体となることを意識しています。生命誌とは、と定義を述べるのではなく、表現を通じて一緒につくっていくのが理想です。科学のわくわく感はわからないことに出会うことですし、受け手それぞれが自分にひきよせて考える楽しみを伝えたい。とは言っても、難しい研究の話題を前に、そんな含みをもって伝える技術も余裕もまだまだ全然もてません。ご贔屓の劇団は最後の舞台を迎えますが、共につくる第三の舞台を胸に、表現をみがきたいと思います。

 [ 平川美夏 ]

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