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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【食わず嫌い】

遠山真理 先日、生まれて初めて九州の地に降り立ちました。リムジンバスに乗り込んで、畑や山々といった素朴な景色を楽しみながら向かった先は、季刊生命誌68号のリサーチの取材。12月中旬の67号発行を控えたこの時期に、私たちは既に次号に向けて動き出しています。
 今回、伺ったのは脊椎動物の発生のお話です。発生は私にとってあまり馴染みのない分野で、カエルぐらいだったら高校の教科書での記憶があるのですが、マウスやニワトリともなると、発生段階の図版を見てもどちらが上か下か理解するのにも時間がかかるほどです。一つの卵から個体ができあがるということは、生き物それぞれ違ってダイナミックな現象で面白そうなのに、ちょっと取っつきにくい印象があったのも事実です。準備は念入りに、事前に関連する論文などを読んではみましたが、ほとんど専門書片手ににらめっこでした。取材当日もぎりぎりまで大学構内の自販機コーナーで予習していたくらいです。
 緊張しながら望んだ取材ですが、案ずるより産むが易しで、発生って取っつきにくいなぁと思っていたのは私の食わず嫌いだったようです。やはり研究されたご本人からうかがう言葉はどんどん心に入ってくるのです。この図版はどの方向からみたものかという素人的な質問も、その場で答えてもらえるので、断片的だった知識があれこれつながっていく感動も味わえました。質問攻めの2時間になってしまいましたが、優しく丁寧に答えてくださったSさん、本当にありがとうございます! 公開前なので、詳しい内容をここでお話できないのが残念ですが、Sさんからは、研究を始めたきっかけ、過程ででてきた予想外の現象に驚いたこと、事実を積み重ねて合理的に考えることの楽しさなどなど、予習してきた論文からは読み取れないことをたくさん伺うことができました。どういう思いで研究に向かわれているかと言うことも、記事を編集する際にはとても大切なのです。学術論文は科学者にとって欠かすことのできない発表の場ですが、一対一でお話を伺うと、そこからはこぼれ落ちてしまうものが本当に多いことがよくわかります。取材をした身としては、研究者の方の視点や思いをこぼれ落としてしまうことなく読者の皆さんに伝えられるよう、編集に励みたいと思います。
 今、私の机の上には、発生に関する書籍が机の上に山積みで、これらの本が片付けられるのはまだまだ先になりそうです。記事の公開は3月中旬予定です。どうぞお楽しみに。

 [ 遠山真理 ]

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