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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【展示物たちの仕事】

齊藤わか 年が明け、私が生命誌研究館で館内ガイドを始めて1年半経ちました。今では展示ホールも見慣れた光景になりましたが、はじめて生命誌研究館に足を踏み入れたときは、肺魚!骨!細胞!と見慣れないものが次々と目に飛び込んできてわくわくした記憶があります。そしてもう一つ思い出すのは、SICPの人々と初めて会って話を聞かせてもらったときのことです。スタッフの村田さんが、「SICPの仕事は、科学を知らない人に専門知識を分りやすく教えてあげるということではないんです。研究どうしのつながりや位置づけを示すことで、科学者も含めたみんなにとって意味のある情報を示すことなのです。」と教えてくれました。科学と一口に言っても、さまざまな分野があります。生き物の科学だけに絞ったとしても、複雑な生命現象を一人の科学者が調べつくすのは不可能で、実際の一人あたりの専門分野というのはごく狭いものにならざるを得ません。だから科学者であっても、自分の専門分野を一歩出れば未知の世界が広がっているというのは普通にあり得ることなので、「科学者の人々vs科学を知らない人々」という対比関係は意味が無いのではないでしょうか。
 そんなことを考えながら研究館の展示物を見ていると、単に専門知識を分りやすく示したものではなく、他のどこにもないオリジナルな情報が詰まっています。例えばDNAのコーナーには大きな鏡があって、真っ先に自分の姿が移るようになっています。そこから細胞に視点が移り、それからDNAの二重らせん構造がようやく現れます。二重らせんのイメージだけが先行しがちなDNAですが、これが私たちの中にあるんだということが実感できますし、細胞の働きにはDNAの働きが不可欠だというつながりを知ることができます。これはDNAの働きを研究している人にとっても、細胞の働きを研究している人にとっても、意味のある情報ではないでしょうか。
 館内ガイドの私も展示物と同じく、来館者の方と一緒になって、発見したり考えたりする役割ができたらなと思っています。


 [ 齊藤わか ]

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