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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【ご先祖様に呼ばれました。】

和田 楓
 はじめまして、この春からSICPの新メンバーとして仲間入りさせて頂きました和田です。これまで在籍していた大学院では植物生理学を専攻し、植物が花を咲かせるしくみを研究していました。研究室ではよく、私たちは花咲爺さんになりたくて研究しているんだ、と言っていました。枯れ木に花を咲かせ、お殿様を喜ばせたあの灰は何なのか、つまり、花を咲かせる物質を探る研究です。国内外問わず学会発表に飛び回り、それぞれ違う考え方を持った多くの研究者と討論することはとても刺激的で楽しい時間でしたが、そう思う一方で、専門家以外の人とも研究の楽しさを語り合えたらなあ、とも思っていました。そんな折に生命誌研究館のことを知り、ここぞと思ってえいっとスタッフの一員として飛び込みました。
 先日、高槻城跡の公園で、暖かい陽気の中で咲いたたくさんの花を見ながら、枯れ木に灰をまくお爺さんやそれをあっぱれと眺めるお殿様のことをのんびりと考えていました。お殿様と言えば、実は、かつて高槻城主だった和田家は私の遠いご先祖様らしい、という話を聞いたことがあります。本当かどうかはわかりませんが、私の家の系図をさかのぼると高槻城に住んだという伊賀守和田氏が登場するそうです。かつてご先祖様が住んでいたという町に移り住み、自分のルーツというものに思いを馳せてみると、遠い昔のご先祖様から子孫が途切れずにつながっているから今の自分がいる、ということを強く意識させられます。ここで、おや、と思ってもう少し考えてみました。戦国時代のお殿様よりももっと昔のご先祖様は誰だろう、イザナギとイザナミでしょうか。もっともっとさかのぼったら、と考えていると、生命誌研究館に展示されている生命誌絵巻が頭に浮かびました。戦国時代や人が記録した最古の歴史よりもさらにさかのぼって、38億年前に生命が生まれたときから命を受けついで今の私がいるのだなあ、と、城跡公園でおにぎりを食べながら考えていました。ふと気づくと、すぐ足元でスズメが不思議そうに私を眺めていましたが、私はそんなことを春の陽気の中で考えていたのでした。今、私は生命誌について考え始め、学び始めたところですが、戦国時代のご先祖様のおかげでようやく第一歩を踏み出せたような気がします。もしかしたら、高槻で働くことになったのは、ご先祖様に呼ばれたのかもしれません。
 高槻のお殿様の末裔は私の代で花咲爺さんになろうとしたわけですが、これからSICPのメンバーとして働くということは、今度は物語「花咲爺さん」を語る、語り部になるということなのだと思います。駆け出しの私はまだまだ至らないことばかりですが、研究館の皆さんのような素敵な語り部になれたらいいなあと思っています。

 [ 和田 楓 ]

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