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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【論文に取り組む】

坂東明日佳
 大学や研究所では毎日のように様々な研究発表会が開催されますが、年度の節目にあたる先月は先生の退官記念講演会のラッシュでした。私が大学の退官記念講演を聴講したのはSICPの大学院生になったときのことです。研究者としての駆け出し時代から、ときに今後の研究の抱負まで(退官講演なのに!?)、研究者人生を振り返りながらこれまでの研究成果を発表するスタイルに「通常のセミナーや論文よりも研究者が研究をするうえで大切にしてきたことや原動力が伝わりやすい!」とすっかりやみつきになり、それ以来毎年欠かさず足を運ぶようにしています。
 残念なことにすべての研究者が身の回りでこのように”気持ち”を発信してくれる機会があるわけではないので、たいていの研究者との最初のコンタクトは論文を通じてです。確かに論文にも「To our surprise(驚くべきことに)」などの決まり文句で多少感情を表す文章がありますが、「いや実は運よく培養条件の違いがきっかけでみえた現象で、粘り強く検証したあげく、こんな風に分子が働くというモデルに辿りついたわけです」というように講演や対談を通じて分かる研究活動の様子を論文の文脈から読み取ることはかなり至難の業です。
 先月久しぶりに退官記念講演やセミナーに参加して色々な研究者の活き活きとした発表に耳を傾けているうちに、最近自分は論文の整理に取り組んでいるといっても文章の言い回しなどの言語処理の課題に視点が埋没しがちで、ますます文脈を読んだり、研究者の気持ちを汲む余裕がなくなっていることを痛感させられました。そのままうっかり「文章の再現性という意味ではがんばったけど、誰とも通じ合わない独りよがりな表現」などという本末転倒な結果にならないように、意識的に「自分が今考えている論文の整理や表現方法は、研究者に何を感じさせるものになるのだろう?」と問いかけ、論文の内容のほうにももっと脳みそを使って、直接研究者の反応も確かめながら、作業にフィードバックをかけたいと思います。




 [ 坂東明日佳 ]

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