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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【自転車の上で感じること】

後藤紘子
 朝晩の空気が澄み、通勤電車の車窓から見える山並みが少しずつ赤みを帯びてきました。木々が冬支度に入り紅葉を楽しませてくれる季節は、外へ出かけたくなりますね。私にとっては、これからが自転車の季節になります。自転車といっても本格的なロードレーサーではなく、ちょっと性能のよい街乗り自転車で、競わずに目的地へ向かうのんびりサイクリングです。春は花粉症、夏は陽射しに負けてあまり乗らない分、秋から冬にかけては50〜60kmほど走ります。自転車に乗ると、どんどん変わっていく景色も楽しめますし、流れる風を全身で受けるので、冷たく乾いた空気やときどき出合う枯葉の匂いなど、季節の気配を五感で感じることができます。また、上り坂などで無心になってひたすらペダルをこいでいると、自分の体のはたらきを実感します。脈拍や呼吸が速くなり、体温が上がって汗が流れていきます。水が飲みたい、甘いものが欲しい、足が疲れて休みたいなど、体の内部からわき出る欲求の一つひとつは、生きるための基本的なものばかりで、普段忘れがちな生きている感覚を思い出させてくれます。この「生きている」を支えているのが、私の中のさまざまな細胞なのだと思うと、細胞の持つ巧みなしくみに生きものの不思議を感じます。自転車に乗りながら細胞に思いを馳せていますが、現在私は細胞の柔軟な「生きる」知恵を実感するインタラクティブ制作に取り組んでいます。多様な細胞がそれぞれの場所で役割に適した形をもち、周囲の細胞と協同してはたらいていると、とても複雑なことのように見えますが、実は細胞の持つ基本的ないくつかのはたらき(力を出す、変形する、取り込む、感知する、提示する、接着する、分泌する、自ら死ぬ、分裂する)を組み合わせることで巧みに「生きている」を支えていることが実感できるよう工夫しました。来月には「細胞展」の部屋で皆さまに体感して頂けるよう、自転車が走るようにぐんぐん進めています。是非足をお運び下さい。



 [ 後藤紘子 ]

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