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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【SICPには窓がない?】

今村朋子
 BRHに続く桜並木もすっかり葉桜に変わり、玄関の前にはスコールの跡のように真っ白い花びらが散っています。晴れた日に外に出ると、青空に映える新緑が、少しだけ初夏の香りを漂わせます。
 SICPに入ったばかりの私は、とにかく勉強!の毎日です。生命誌とは何か? それを伝えるためにはどうすればいいのか?過去の先達の記録の総覧や、必須ツールであるパソコンの操作と格闘し、気が付けばとっぷり日が暮れていた、ということもしばしばです。
 未熟者の自分に煩悶する日々ですが、ひとつだけ心がけていることがあります。窓を開くことです。ずっと以前に聞いた言葉ですが、忘れてはいけない言葉だと思っています。
 「窓のない思考というのがある。頭を穴ぐらに突っ込んで、独り思いに落ちてゆく思考法である。自分と論理が一体になって自己旋回してゆくのは水中の感覚のように甘美でさえあるが、結論はたいていろくなことはない」
 哲学でも科学でも、考えることには、自己中毒という罠が伴います。窓を開くこと、周囲の人の意見を聞くこと、周囲に対して心を開くこと。いらないプライドを捨てて、現状を正しく認識すること。なかなか難しいですが、周囲の方の助けを得つつ、(多大な)迷惑をかけつつ、風通しの良い思考を持ち、それを表現に繋げていきたいと思っています。ライプニッツは「モナドには窓がない」と喩えましたが、窓は意識的に開けなければ、簡単に閉じてしまうもので、言い換えれば、思いつけば誰もがすぐそこに開くことができるのではないでしょうか。
 話は変わって、SICPの部屋の窓は、物理的に小さいです。なおかつ、私の席は窓に背を向けているため、ついつい外の風景を忘れがちです。それでもホールに差す光は日ごとに長く、白壁に展示物のシルエットが鮮やかに刻まれて、季節はしっかり推移しているんだなあ、と感じています。私にとっての窓は、この研究館そのものなのかもしれません。


 [ 今村朋子 ]

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