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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【社会の中の生命誌】

村田英克
 表紙は、生成りの紙で、触るとさらさらしています。指に引っ掛かる手触りは、透明な樹脂を幅0.5ミリの線で盛り上げて引いた三重の同心円と紫の点。連休前から本屋さんに並び始めた新しい生命誌年刊号のお話です。題は『語る科学』、副題で「生命誌年刊号Vol.41-44」と紫色のゴシック体で記しました。紙の持っている黄色味とコントラストを成しています。
 季節ごとにカードとWEBをつくる度に、先生方から預かった原稿はもちろん、形にしていく過程で多くのプロの仕事が凝縮します。年刊号をつくる作業は、年度テーマを軸に、その一年分の時間をもういちど辿る作業です。まさに45号トーク港千尋先生の「再」の時間が大切というお話です。是非ご一読下さい。
 まとめ直す時には、テーマ「語る」を一年分の経験から振り返ることができます。そこから全部の要素を見渡して構成し、入れ替え、新しい要素も挿入しながら、全体として、始めて読む方にとって「生命誌って何?」「語る科学って何?」と感じて頂けるように編集していきました。
 年刊号という形にして全国の書店で取り扱ってもらうことで、一人でも多くの方に手に取って頂きたいと、一年前の『愛づるの話。』から新曜社さんを通して配本を始めて今年で二回目です。流通に乗せるにはそれ相当の工夫も必要で、新曜社の方にもいろいろご助言も頂きました。本屋さんでこの本を探すと、やはり「生命科学」や「生物学」の棚に並んでいます。もちろん基本はそこなので良いのですが、少し思うこともあります。
 社会はいろいろな枠組みによって動きます。いま流通でも、青果流通でなく書籍流通に乗せたので『語る科学』は八百屋さんでなく本屋さんにあります。本屋さんには「棚分類」があるので、これが生物学か、数学か、コミックかというように分類できなければ棚に置いてもらえません。でもこの本を開けば、生物学でない、天文、解剖、人文科学、人類、哲学、生態、地質、それから日本の美術、演劇、そして人生の物語まで、盛りだくさんに載っています。全部あわせて「生命誌」なのですが・・・。どこかに「生命誌」という分類を創設してくれる本屋さんはないかしら?そうでなくとも「生命科学」や「生物学」以外の「芸術」とか「暮らし」とか、もちろん「ベストセラー」の棚とか・・・、もっと多様に置いてもらえると嬉しいのですが。
 街の本屋さんにとっては、毎年、毎月、発行される星の数ほど溢れる新刊書の一つに過ぎないでしょう。でも皆さん、どうぞ本屋さんの棚で『語る科学』を見かけたら、一度手に取って、ぱらぱらとめくってみて下さい。そこには生命誌の一年という時間が凝集しています。


 [ 村田英克 ]

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