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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【学生としてSICPを味わう】

坂東明日佳
 SICPに来てから丸1年。まだまだ未熟なところばかりですが、研究活動としてScience Communication and Productionに取り組み、スタッフの仕事に触れることからも学べる、というSICP学生の特権をようやくジワジワと感じ始めてきました。毎回スタッフがもの作りの日々を楽しく書いていますが、学生は、SICPってどんなところ?と少し観察のようにそれらの日々を過ごす時もあります。今、私から見てSICPメンバ−とは日々、孤独を抱え続ける人たちです。哀愁を漂わせているなどと言っているのではありません。孤独なのは、「私はこれがやりたい、だからここにいる」あるいは逆に「私にはこれができない」ことに対して、明確な意識を各自もち続けている、ということです。ただ意識をもつ人ならそこら中にいますが、その意識を”貫いて”孤独になること、貫かずにはいられないキャラクターこそSICPの仕事には必要なのだと思います。また、相手の孤独と自分との間に凸凹のようなものを見つけてつながってしまう、これもSICPの人は上手です。ハタと気づけば、みんなで集う大きな机の上に渦が巻き始めて、10にも満たない数のスタッフの手で、生きもののしくみが色々な表現の形となって発信されていく様子は・・まさにcommunication and productionです。けれども、私が現場で観察する限り、この一連の楽しい共有作業の出発点は決まって、誰かの孤独から、だと思うのです。
 一方で私の研究は、誰かと共有するにはまだ一粒のゴマくらいの小ささですが、それを形にするまでに使ったエネルギーもまた、孤独から作られたと言えます。私の場合、「私にはできない」というタイプの孤独です。「客観的に研究や物事を見る目が私にはない、ない、ない!」と自分を追いつめ、どんどん溜めこみ、もう底まで孤独でいっぱい、そろそろフタする?というとき「今度は開け」といわんばかりにブワッと仕事に移った気がします。その仕事とは、過去にBRHが記事として取り上げてきた研究を、1つずつ生物の教科書Molecular Biology of the Cellの章に対応づけて客観的に整理するというごく基本的な作業です。そして地道です、記事は300以上あります。しかしあのネガティブな孤独ほど、この仕事をやり抜く原動力になるものはなかったと思います。もちろん多くの助けを借りて。整理は私に、客観性を見つめ続けるきっかけを与えてくれました。整理するうちに、ゲノムの働き、ゲノムの多様性、発生という特定の章に研究が集中していきました。生きものを理解するための生命誌のコンセプトが、生命誌が取り上げてきた研究の偏りからも分かる。それを一つの形で示すことができたのです。これがSICPで作った私の粒であり、この粒がグルグルと立ち上がり、渦巻くべき方向はどこなのか考え始めている・・・。今、SICPのおもしろ”味”を味わい始めました、と言ってよいと思うのです。


 [ 坂東明日佳 ]

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