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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【TALK−対話を通して】

村田英克
 今年は私の段取りが悪いせいか、昨年とは対照的に四回とも先方へお伺いしての収録でした。テーマは「語る」、振り返ればあっという間の一年でした。

 初回、小平桂一先生が虎ノ門へ用事があると伺って、ちょうどJT本社ビルがそこにある。さっそく本社にもご協力頂いて高層ビルから東京を見下ろしての対談が実現した。小平先生は中村館長とは旧知の仲、お二人とも顔を合わせるなり、やあやあと和気あいあいと話がはずむ。対談は一見とても軽快に、かつシャープに進みますが、ところで、すばる望遠鏡を創るという前例のない事業に形を与えるにはどれほどのご苦労があったのだろう。「理解と価値をつなぐ」ために必要な、夢の力や情熱がジェントルマンな姿の中に秘められています。

 二回、多様な演劇分野の方が集い新しい舞台を考える「語るの会」の場を借りて収録。多くの人や物のエネルギーが注がれて成り立つ舞台。そのすべてを支える演出家、遠藤啄郎先生の身体からは、滾々とエネルギーが湧きだしています。タン、タン、ターン!と発せられる言葉には、空間を刻んでいくような勢いがある。言葉に手触りがありました。対談では、スタニスラフスキーやチェーホフ、ベケットと近代演劇を考える豊かなお話もあったのに・・・、本文からは割愛、謝。「語るの会」には中村館長も参加しています。舞台ができあがるのが楽しみです。

 三回、川田順造先生の「声」にはとても魅力があります。言葉と構音器官のお話が対談にも出ますが、目の前で構音器官を操って発話されていることが実感として伝わってくる不思議な「声」なのです。モシ、フランス、日本の言葉について身体を通しての説得力に圧倒されました。対談の中で一ヶ所、[実際に音を出す]という不明なカッコ書きがありますが、先生が実際に発音して下さったクリック音が表記できず、もどかしい思いです。取材の翌日、日本民芸館でアフリカ民具のご講演があると伺って、そのお話も聞けて、とても勉強になりました。

 四回、坂井建雄先生は、私たちをぞろぞろ引き連れて学内を案内して下さいました。廊下ですれ違う学生さんと何気ない言葉を交わしたり、解剖標本の前で撮影している時なども、集まってくる学生さんと冗談を言いあったりしている姿がとても印象的でした。お話にあるように解剖学は、とても古くからの伝統をもった学問ですが、その長い長い歴史を内臓した坂井先生という人が、東京のお茶の水界隈で、活気に満ちた若者に囲まれ、現代の日常をすごされる様子に、なぜだかとても感動しました。対談からも伝わると思うのですが、教育を本当に考えておられる先生です。

 生命誌にとっての「語る」とは何か?その輪郭が毎回の対話の進行に伴って、交される言葉の間から徐々に形を与えられ浮かびあがってきます。その時、その場には、やはり言葉にならないことがたくさんあります。それを少し言葉にする努力をしてみました。



[村田英克]

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