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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【伝えられることと伝えられないこととタイミング】

工藤光子
 最近は私が小さな頃には信じられない程技術が発達し、メールやチャットなどが物理的な距離とは無関係に、いろいろなことを可能にしてくれています。そういう私もアメリカから日々メールやたまにはチャットをしてスタッフとやり取りをしているのですが、毎日一緒に8時間以上の時間を過ごすことの違いをまざまざと感じています。11月の末に一時帰国して1週間程BRHで仕事をしたのですが、やはり全く違う。伝えられることと伝えられないことがあるのはもちろんですが、時間を共有することで、適切なタイミングにその人に物が伝えられると言うことがとても大切なのだと強く思いました。当たり前ですが、アメリカにいる私との間には時間が抜け落ちるのです。
 BRHに入ったばかりの頃、文章は“達人中村館長”に任せて私は違うことに精を出そうと思って、今まで物を作ってきました。私がサイエンスコミュニケーション&プロダクションのプロダクションにこだわるのも、ニュアンスや伝えにくいことが言葉以外で伝わると信じているからです。もちろん文章だけでも、名作と呼ばれる作品には書かれた字面以上の空気があることはどなたもご存知のことと思いますが、それができれば小説家になっているので!これまで私もさまざまな展示や映像を作ってきましたが、自分がのっている時には、作品にも気が入ると言うか、見ている人を巻き込む何かが宿るのです。BRHにきた日本語がわからない海外からのお客さんに展示を案内して説明に困っていると、これはこういうことだろう?とあっさり展示の意図を言ってくれることが何度かありました。言語に頼らない方が、展示のメッセージなどはストレートに伝わるのかもしれません。また、日本の受け手側にも、年齢に関わらず、展示を見る時に、絵は文章を補う物としている人と、絵は絵で絵解きをし、文章は別と認識している人がいます(中村館長いわく、漫画の影響が強い世代には後者が多いそうです)。後者の方がやはり書かれていない意図を見抜くことが多いようです。
 伝えにくいことを伝えるにはもちろん文字以外の情報も重要ですが、加えて時間、つまりタイミングも大事なんだと改めて感じています。今度からは順番や配置と漠然と思っていたことを『時間』に置き換え、意識的にやってると何か違った物ができるかなと思っています。と、思いつつ、今日もメールの文章にニュアンスを吹き込む努力をしています。



[工藤光子]

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