1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【慎重かつ大胆に】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【慎重かつ大胆に】

桑子朋子
 BRHに入ってすぐの「生命誌の階段」展で、音声ガイドを始めました。「ふだんはバクテリアを食べ、分裂で増える単細胞のアメーバ。ところが食べ物が減るなど環境が変化すると、何万個ものアメーバが集まって、1つの体をつくりあげます。アメーバはもはやアメーバではなく、ナメクジのような集合体を構成する細胞になります。巨大なナメクジ体は移動し、たくさんの胞子を一度につくって仲間を増やすこともできます。・・・」という具合に、壁面のサイエンスイラストレーションと共に38億年の生命の歴史を語ります。受付でiPodとイヤホンを借りられますので、ぜひ、体験してください。

 さてこの音声ガイド、SICPスタッフの手で一からつくりました。朗読を担当したのが私と遠山さん。シナリオをまとめている時は良かったのですが、それを声に出して読むとなると、なかなか難しい。子供に絵本を読む時は風景や登場人物の気持ちに沿うのですが、生命誌に登場するキャラクターは大腸菌、マラリア原虫、プラナリアなどのくせ者ぞろい。とくに絶滅したエディアカラ・カンブリア時代の動物は、NHK特集のCG映像にイメージが偏り、「海底を這っているように見えるのが「ディッキンソニア」です」というテキストを読むのに、どうも調子がつきません。ならば本物を見ようと自然史博物館に足を運びました。展示室の隅にいたディッキンソニアは、岩盤に枯葉を押したような小さな印象化石。知識として頭にあったものの、眼の前にすると様々な思いが巡ります。化石であれDNAであれ、1つの手がかりから皆でイメージを共有できる形を蘇らせることの面白さを、改めて実感しました。
 話は飛びますが、今、webジャーナルの編集をしています。「生命誌の階段」でいうと中三階から4階まで、つまり、5億年前から現代までに起きた、節足動物の付属肢多様化の研究を取りあげます。ここでは、1つの証拠からイメージをつくりあげるとき、いかに科学者が慎重さを極めるかというポイントを再認識。Science Communication and Production では、安易な抽象化や概念化に走ったモノ作りをしない慎重さと、思い切って語る大胆さを、上手く併せ持っていきたいと思うのでした。

※ この音声ガイドが聞けるWebコンテンツを制作中。美しいサイエンティフィックイラストレーションを画面いっぱいに楽しめます。11月末に公開予定。HPをチェックしてください!
 

音声ガイドの貸出は受付にて
エディアカラ動物群



[桑子朋子]

表現スタッフ日記最新号へ