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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【桜シャワーを浴びながら】

坂東明日佳
 生命誌研究館から郵便局までの道のりで、桜のシャワーを浴びちゃった時。「しんぶん、しんぶん、花びらのしんぶん・・」そんな詩を思い出しました。小さい時に読んだコロボックル物語『豆つぶほどの小さないぬ』という本に登場する、女の子がつくった詩の一部分です。女の子は、自分の好きな男の子のことを詩にしました。「男の子は花びらの新聞をみんなに配って歩く、でもその新聞は男の子に書いたものなのに、彼はそれには気づかないで、うれしそうにみんなに配るのよ」という気持ちを表した詩だったと記憶しています。そんな詩が聞こえてくるようなシャワーだったので、桜の花びら、ひとつひとつに想いが込められて私に降りかかるように感じました。がんばれの花びら、好きの花びら、嫌いよの花びら、体によい食べ物はおみかんよ(おばあちゃんの口癖)、の花びら・・。淡いかすかなピンクかかっている白は、私をそんな言葉でたくさん楽しませてくれる色でした。私達の住むところの隅々まで、本当にたくさんのおもしろいこと、心動かされることが用意されている!みなさんはどんな想いを今日誰からもらいましたか?
 私が、これからサイエンスコミュニケーション&プロダクションを取り組む上で大切にしたいと思っていることは、心の揺さぶり。というよりも、大切にしたいことを漠然と考えていたら、この生命誌研究館のサイエンスコミュニケーション&プロダクションに流れ着いた・・です。心を揺さぶりあう・・どのような方向へ揺れるか、それは人によって違うと思います。方向を決めたい、というのではなくてその前の、心のブランコを揺さぶるための最初の「ひとこぎ」に、生命科学を表現するという形で参加できたらすばらしいな、と感じているのです。というのも、生命科学研究から、私自身が具体的な感動を得ることを体験したからです。それは音楽やアートから感じられるものとは違う、より具体的な、自分に直接関係するような感動でした。
 私は大学で植物の発芽する仕組みを研究テーマにしていました。植物の種子は、発芽するかしないかを環境との相互作用で決定する機構を自ら持っています。生きていくために、ここの光、温度、水などの条件が自分に適切なのかどうかをチェックして・・ようやくポコリ。この発芽するまでの環境チェックの方法が、人には分からないことだらけ。どうやら非常に複雑で、独特な仕組みのようです。植物は動物のように歩いて環境を変えるのは無理なのですから、発芽は生きるためのビッグイベント。そんなメカニズムが砂粒ほどの種子(シロイヌナズナの種のこと)の中にあるなんて・・。私は、それぞれの生物に人間の想像を越え、みごとなシステムが備えられていることを目の当たりにして、生き物が存在する意味が、生物の仕組みの中でこんなにたくさん示されているじゃないか!と感じてしまいました。みんなにも感じて欲しい。今までにそのような想いを私に育ませ、さらに表現するという新しいチャレンジを与えてくれた多くの人たちに感謝して、今度は私のワクワクしていることが、花びらのしんぶんみたいに、みんなを喜ばせることにつながるといいな!と思いつつ、桜は散ってしまったけれど、若い緑で眩しくなった景色を楽しみながら今日もBRHへの道を歩いてきました。
 それでは、これからよろしくお願いします。




[坂東明日佳]

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