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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【“つくりもの”をつくること】

高木章子
 春の嵐の日曜日,大阪の巨大テーマパークU○Jにやってきた.UFJ銀行との区別もつかないオバチャンの私であるが,友人カップルに誘われ「まっ,一度は行っとくか」くらいの気持ちである.
 映画の主人公になりきるアトラクションが人気だ.「40分も待ったんやから面白いよなあ」と乗り込むが,いつもの職業病に邪魔された.ジョーズには「毎日同じ場所で牙をむくなんて気の毒ねえ.こっちもナナフシを見ている方が面白いわ」と同情する.ジュラシックパークには「化石のDNAから恐竜が蘇るって話も無理があるよなあ」と毒づく.なにより私が「これってどうなんだろう、、、」と感じたのは,3D眼鏡で見る映像アトラクションである.
 なーんにも,考えられないのだ.目の前に迫る圧倒的な大音響と立体映像に五感の全てを塞がれ,人が撃たれ建物が爆発するハリウッド映画のワンシーンに投入される.ストーリーや音楽を楽しむ余地はない.外に出て冷たい風に吹かれ,時間だけを失ったような気持ちになった.
 比べるものではないが,3月に生命誌研究館で催された人形劇「死と再生−生きもの達の物語」での出来事を思い出した.胎児の手のひらはアポトーシス(=細胞の自殺)によって5本の指に成るのだと登場人物が語り,細胞をイメージした幻想的な幾何学模様が舞台に浮かび上がる.そのとき,客席の女の子が自分の手のひらでグーとパーをつくり指の形を何度も確かめたのである.小学生には難しい内容だと思っていたのでびっくり.女の子が今ここでつかんだ考えるきっかけに,私の心は熱くなった.テーマパークも舞台も展示も“つくりもの”という共通点がある.規模の大小は大事ではない。同じ“つくりもの”なら、「どうだ! すごいだろう,そりゃあ,おりゃあ」と投げつけるものではなく,「ど,どうかな? すごい気がしない? ゆっくり,後戻りもOKよ」と手渡すものを私はつくりたい.そう思ってしまったのも職業病かしら・・・.
 さいごに,これからU○Jに行く方へ.悪態ばかりつきましたが,面白いところもありますよぉ(小さい声).当の私も土産を買いあさり,SICPスタッフに配りまわったのでした.



[桑子朋子]

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