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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【食わず嫌い】

加藤史子
 「生きものを触ったりするのは、ちょっと気持ち悪い」というような理由で生物学(特に実験)を敬遠している人は、意外に多いかもしれません。でもそれは、思いこんでしまっているせいで一度も触れたことがないだけの、単なる“食わず嫌い”かもしれません。
 私が高校生だったある日、アカムシ(ユスリカの幼虫)のだ腺(だ液を分泌する器官)を取り出し、だ腺細胞の中にある染色体を顕微鏡で観察するという内容の生物の授業がありました。だ腺染色体は、他の細胞にあるものに比べて巨大で観察しやすいのですが、だ腺を取り出すにはアカムシの頭部をピンセットで「プチッ」と引っ張らなければなりませんでした。小さなアカムシですが、血も出るし、内臓も見えますから、その“ナマモノ感”はやや強めです。男子も女子も「ワー!」「キャー!」と教室中大騒ぎでした。私もそんなことは一度もやったことがなかったので、初めはみんなにつられて「気持ち悪いからできなーい」などと言っていたのですが、そのうち「ちょっとやってみようかな?」という気になり、思い切って「プチッ」とやってみたところ案外平気で、その後すぐにだ腺を見つけられたので嬉しくなり、染色体を観察する頃には「お、おもしろい・・・」と夢中になっておりました。そうです、まさしく単なる“食わず嫌い”だったのです。
 私には生物学実験の他にも、ジェットコースターや車の運転など、嫌がっていたけどやってみたら大好きになっちゃったことがたくさんあります。誰でも一つぐらいは思い当たることがあるのではないでしょうか。JT生命誌研究館に足を運んでいただければ、生きものへの興味の扉を開くきっかけになるかもしれません。私も館内展示ガイドをする機会があるのですが、相手の方々が全員生きものに興味があるとは限らないのです。そんな時にはいつも、一人でも多くの“潜在的生きもの大好き人間”に目覚めてもらいたいなと思って、「ここで引っかかってくれるかな?・・・だめだった、じゃあここならどうでしょう?」というふうに、ガイド中ひそかなチャレンジを繰り返しています。


[加藤史子]

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