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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【ミトコンドリアの分裂に感動】

2000年5月15日

 少し前になりますが、ミトコンドリアの分裂過程を撮影することと、ミトコンドリアのDNAが蛍光色素で光っているところを生きている生物で撮影することを目的に東京大学に行ってきました。現在制作中のビデオ「ゲノム伝─大胆に変化してきた38億年─」の中で、核のDNAとミトコンドリアのDNAを合わせたものがゲノムだという説明をするための映像です。サイエンティストライブラリーにも登場されている黒岩常祥先生と大学院生の森山陽介さんが協力して下さいました。まだだれも成功していない初めての試みなので、さまざまな条件を検討しなければならず、お二人の全面的な協力がなければ撮影は不可能でした。
 使ったのは、粘菌アメーバです。透明な袋の中にガラスの破片を散りばめたようなとても美しい生物です。粘菌のミトコンドリアはとても大きくて見やすく、まるで独立した生物であるかのように細胞内を移動します。ミトコンドリアがもともとは一つの単細胞生物だったことが実感できます。最初は、粘菌が食べた大腸菌とミトコンドリアとの区別が付きにくいのですが、慣れると簡単に見分けられるようになります。撮影には、より見やすくするため、しばらく絶食させて大腸菌を消化し終えた粘菌を用いました。
 ミトコンドリアは、動き回る粘菌アメーバの中で、つきたての餅が引きちぎられるかのように分裂しました。その間約30分。膜が糸のように細くなってついにちぎれたときは、みんな思わず歓声をあげていました。ミトコンドリアの分裂が終わると、今度は核が分裂を始めます。このときミトコンドリアの分裂がピタリと止まるのは、核がミトコンドリアの分裂をコントロールしてるからだそうです。核の分裂が終わると細胞は真ん丸になり、今度は細胞が中央のところからくびれ始めます。こうして内容物が均等に分配されるのだなと、その巧妙さに驚かされました。生物の美しさ精巧さに改めて気づかされた3日間でした。蛍光色素での撮影にも成功し、黒岩先生も素人の無理難題に応えることで研究が進むと喜んで下さいました。
 皆さんにもこの感動が伝えられたらと思います。完成したら是非ビデオを見て下さい。
[鳥居信夫]

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