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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【皆既日食に際して思うこと】

1999年8月15日

 さる8月11日に、ヨーロッパや中東では皆既日食が見られたという。晴れていた空が突然真っ暗になり、目を凝らすと黒い太陽が真珠のように輝く。今回は残念ながら日本では見られなかったけれど、ニュースなどから察するに、なかなか神秘的な光景のようだ。
 ところが、テレビのニュースを見ていたら、キャスターが日食が起こる仕組みを模式図を持ち出して説明しはじめた。その瞬間、せっかく神秘的に思えていた日食が、実につまらないものに思えてしまった。なんだ、くるくるとまわる3つの物体が、たまたまある位置に来ただけじゃないか、という風に。
 いやいや、でもやっぱり日食は神秘的なはずだ。高い旅費を出してまで見に行こうとは思わないけれど(実は私のいとこの一人が天文マニアで、父親と一緒にヨーロッパへ日食ツアーにでかけたのだが、さて、ちゃんと晴れて見れたかどうか)、日本で見られることがあれば、是非見たいと思う。昼間に突然訪れる闇の世界・・・。たった数分とはいえ、どんなふうに感じるだろうか。
 科学の進歩は、様々な自然現象の裏にある法則や仕組みを明らかにする。しかし、明らかになった説明だけを聞いていたのでは、自然の神秘を感じることはできない。やはり、自然そのものを自分で体験するということがあって、初めて魅力を感じ、興味がわくのだ。
 生物学でも同じこと。どんなにいろいろなことがわかって「説明」できるようになっても、多様な生命の世界に触れて、神秘を感じる心は失いたくないと思う。
 ということで、展示ホールで飼っているナナフシのところにときどき行っては、「なんでこんなへんな生き物がいるんやろ、やっぱり不思議やなあ。(私は関西人なので関西弁で考えます)」と考えています。
[加藤和人]

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