進化研究を覗く

顧問の西川伸一を中心に館員が、今進化研究がどのようにおこなわれているかを紹介していきます。進化研究とは何をすることなのか? 歴史的背景も含めお話しします。

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DNAとRNA

2015年8月17日

DNAとRNAと聞くとすぐセントラルドグマ、すなわちDNA〜RNA〜ペプチド(タンパク)と続く情報から実体への流れを想像する。しかし、太古の昔、地球上で核酸が情報の媒体として使われ始めたとき、セントラルドグマに定式化されているDNA,RNA, タンパクの間の美しい関係があったとは考えにくい。DNAは地球上に物質として生まれた時点から、複製によって正確に伝えるという点ではすでに情報媒体としての条件を満たしている。ただ、最初から塩基配列のコードとアミノ酸が対応していたとは、神でも想定しない限りまず信じられない。すでに見てきたように、DNAはタンパク質のコード以外にも様々な情報を表現し、それを安定に子孫に伝えることができる。言い換えるとDNAはこれらゲノムの持つ全ての機能を最初に複製可能にした物質だったように思える。DNAが作り出す構造と、タンパクやRNAが、コードとは無関係に相互作用できることは現存のヌクレオソームを見れば明らかだ。一方、RNAとなるとさらに多様な構造を取り得ることがわかっている。実際RNAだけから特定の酵素活性を持つ構造を作ることが可能で、最初の生命体はRNAでできていたと考える人もいる。ただ生命がRNAから始まったという主張に完全に同意できないのは、複製という点でRNAが様々な問題を抱えているからだ。私自身は、まず物理化学法則に従って太古の昔にDNA,RNA,タンパク質が独立してランダムに生まれ、それが何か関わりあい続けるうちに突然情報体系への大転換を遂げたように思える。最近進んだノンコーディングRNA(ncRNA)の研究から、ncRNAがDNAやタンパクと直接関わりあって染色体構造を変化させているのを知ると、この過程に太古の3者の関係の名残が反映されているのではと妄想を巡らせてしまう。そこで、最後にこの妄想に付き合ってもらうためにncRNAが誘導するヘテロクロマチン化について見ておこう。

細胞が発現する全てのRNAを特定しようと試みたFANTOMやENCODEプロジェクトが終わって、全ゲノムの8割にも及ぶ領域が転写されているという事実が発表された時、私たちは何かの間違いではないかと驚いた。しかし前回紹介した、ヘテロクロマチン構造により固く閉ざされたゲノム領域であるセントロメアやペリセントロメア領域ですら転写されていることがわかり、低いレベルなら、クロマチンの構造とは無関係にゲノムのほとんどが転写されていることが認められるようになっている。ヒトセントロメアには174bの繰り返し配列からなるマイナーサテライト配列が、サテライトII,IIIを含む大きなメージャーサテライト配列からなるペリセントロメアに挟まれているが、この二つのサテライト配列もノンコーディングRNA(ncRNA)として、転写されている(図1)。


図1 セントロメア、ペリセントロメアからncRNAが転写され、それが自らのヘテロクロマチン構造形成をガイドする。

これまでの研究で、このncRNAがセントロメア、ペリセントロメアのヘテロクロマチン構造に重要であることが明らかになっている。例えば、マイナーサテライト配列から転写されるRNAはセントロメアにcenH3をリクルートするとともに、CENP-Cを含む様々な動原体の構成分子をこのヌクレオソームに結合させる機能を担っている。すなわち、セントロメアからRNAが転写されないと、正常のセントロメア・動原体の形成ができない。同じように、ペリセントロメアのメージャーサテライト配列から転写されたncRNAは、ヘテロクロマチン転換を誘導するタンパクHP1(ヘテロクロマチンプロテイン1)をペリセントロメアにリクルートし、ヘテロクロマチン構造を形成する。このようにそれぞれの領域の特異的なクロマチン構造を形成し維持するためには、低いレベルでRNAが転写されていることが必要だ。では、クロマチン構造を調節しているのは必ずその領域のゲノムから転写されるRNAだろうか?答えはNoで、様々なRNAがヘテロクロマチン誘導に使われていることがわかっている。最も大掛かりで典型的な例がX染色体不活化(XCI)なので次に見てみよう。

ゲノムからあまり間違うことなく予想できることの筆頭は男女の区別だ。男性はXY、女性はXXが人間の性染色体で、この差が男女を決めている。ただこの方式には一つ問題がある。すなわち男性にはXが1本に対して、女性は2本という数の差だ。というのもXには常染色体とおなじように生命維持に必須の遺伝子が存在するため、何もしないとX染色体上の遺伝子の発現量は女性が2倍になる。多くの遺伝子は発現に2倍の差があっても問題ないが、中には発現を男女一定に保っておく必要のある遺伝子もある。私たち哺乳動物はこの課題に、女性の片方のX染色体をすべて不活性化することで答えている。この不活化にはX染色体の不活化センターと呼ばれる部位に存在するXist遺伝子が主役を演じている。Xist遺伝子は8個のエクソンからなり、普通の遺伝子とおなじようにスプライシングを受けた後、polyAも普通に付加される(図2)。


図2 X染色体のX染色体不活化センターに存在するXist領域は、発生過程で片側の染色体だけで転写が始まり、転写されたXistは普通の遺伝子と同じように8個のエクソンを持ち、転写後スプライシングされ、ポリAが添加されるが、核外には移動しない。

Xist RNAが他の遺伝子由来の RNAと異なる点は、RNAが核外に移動することはなく、従って翻訳もされない。転写が片方のX染色体だけに限られ、またもう一方のX染色体に結合しない巧妙な仕組みについて理解は進んでいるが、全て割愛して、とりあえずXist遺伝子から転写されたRNAは片方のX染色体全体を覆っていると理解してもらおう(図3)。

図3 メスの細胞では、片方の染色体だけがXistによりカバーされている。黄色で示されているのはXist領域で、両方の染色体に存在するが、XistRNAは染色体全体に広がっている。
(Wiki commonsより)

先に紹介したセントロメアや、ペリセントロメアはその場所から転写されたRNAがホスト領域と結合するが、このXistは17kbの領域からだけ転写されるncRNAが染色体全体に結合する。したがって、Xist-RNAはDNAと塩基配列の相補性で結合するのではなく、Xist-RNA内に存在する繰り返し配列Cによりヌクレオソーム自体に結合することがわかっている(図2)。また、X染色体を覆うといっても実際にXistは2000個ぐらいしか発現していないことがわかっており、おそらくX染色体に飛び飛びに結合して、その場所からヘテロクロマチン構造を拡大していくのだろうと想像されている。実際Xistには遺伝子のサイレンシングやヒストンのメチル化に関わる分子をリクルートする繰り返し配列が何種類も存在しており、図2に示したrepeatAは遺伝子のサイレンシング、repeat F, Bはヒストン修飾に関わる分子、そしてrepeat CがXistがクロマチンと結合するのを媒介することがわかっている。このように、DNAとタンパク、ncRNAとタンパクがそれぞれ複合体を形成し、さらにこの両者が働き合うことで、ヘテロクロマチン構造が形成されていくのがわかる。この3者の相互作用には塩基配列コードは必要ない。


図4PiwiRNAの形成と機能

私たちのゲノムの5割はトランスポゾンで占められているが、最後にゲノムに飛び込んできたトランスポゾンをヘテロクロマチン化するメカニズムを担うPIWIタンパクとpiRNAについて見てみよう。海綿から人間まですべての動物に存在して、植物には存在しない遺伝子の一つがPIWI分子で、トランスポゾンの活動を抑える細胞レベルの防御反応の主役になっている。この時に働くRNAがPiwi interacting RNA (piRNA)で、のちに述べるようにこれは遺伝子の機能を抑制するための様々な分子を標的DNAやRNAにガイドする役目がある。このpiRNAは主に生殖細胞に発現している25-26のヌクレオチドからなる小さなRNAで、その種類は千種以上存在すると考えられ、2種類の方法で作られる(図4)。最初の方法は、ゲノム中に存在する200−数百kbのpiRNAクラスターと呼ばれる領域から転写される長いRNAがPiwi分子と結合して、短い機能的な長さに切り整えられることで作られる。このpiRNAクラスターには様々なトランスポゾンに実際に存在する領域が集められており、一種のトランスポゾンのカタログのような領域だ。従ってこのカタログ領域から転写されPiwi分子により処理されてできるpiRNAはトランスポゾン領域と相補的に結合することができる。このカタログのおかげで、ほとんどのトランスポゾンの配列を認識して、遺伝子発現を抑えるための機能分子をその領域へガイドすることができる。piRNAは、このクラスター外のトランスポゾンが活性化され転写が始まったRNAからも作ることができる。この時、トランスポゾン転写産物は、すでにその細胞に存在している相補的なpiRNAとpiwi分子上で会合し、トランスポゾンからの転写産物を短くカットする。こうして出来た短いRNAはPiwi分子上でさらに処理を受け、新しいpiRNAに変換される。どちらの方法でも、出来てきたpiRNAは様々なレトロトランスポゾンと相補的なガイドRNAとして働くことができる。

さてこうしてできたpiRNAとPiwi分子複合体は、piRNAによりガイドされてきた領域のヌクレオソームをヘテロクロマチン型に転換することができる。この場合、標的の情報はこれまで経験したトランスポゾン配列のライブラリーとしてpiRNAクラスターに記録してある。また、今活動しているトランスポゾン由来のRNAもpiRNAに変換してガイドに使うことで、トランスポゾンと他の領域を区別し、トランスポゾンだけをヘテロクロマチン化するのに関わっている。

以上の3つの例から、ncRNAが特定の遺伝子部位の染色体構造を決めるために重要な働きを演じているが、その形成方法と作用機序については多様性が大きいことがわかってもらえたのではないだろうか。さらにpiwiとpiRNAのペアには、ヘテロクロマチン化だけではなく、RNAによりガイドされて直接トランスポゾンのDNAをメチル化し、すでに転写されてしまったトランスポゾンRNAに結合してそれを分解する働きがあることがわかっている。この意味でpiRNAは、多様な武器をトランスポゾン攻撃に集中してその活動を抑える最前線の兵士のようだ。おそらく専門知識のある読者は、piwiとpiRNAの説明を見て、原核生物や古細菌に見られる外来遺伝子の侵入に対する防御機構、CRISPER/Cas9システムを思い出したのではないだろうか。次回は単細胞動物へとさかのぼってセントラルドグマとは異なるDNAとRNAの相互作用について調べてみよう。

[ 西川 伸一 ]

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