進化研究を覗く

顧問の西川伸一を中心に館員が、今進化研究がどのようにおこなわれているかを紹介していきます。進化研究とは何をすることなのか? 歴史的背景も含めお話しします。

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ゲノムのConvergent evolution:収束進化

2015年2月16日

24話は、脊椎動物の水中から陸への進化、上陸作戦だった。この作戦がシーラカンスから肺魚に至る系統でだけでおこったのか、あるいはもっと多くの硬骨魚類が様々な陸上大作戦に成功したが、その後絶滅したのかよくわからない。現存の動物でヒレから四肢への変化と、それに対応する遺伝子変化が確認できるのは、残念ながらこの道筋以外に存在しないようだ。しかし、逆、すなわち陸上で生活していた哺乳動物がもう一度水性に戻るという場合成功率が高いようで、様々な哺乳動物目(図1)から水上生活に戻った種が現存している。図1の系統樹からわかるのは、哺乳類の中で真主齧類(霊長類や齧歯類など)以外の系統にはそれぞれ水性に戻ることに成功した種が存在することだ。


図1:各海洋哺乳動物の系統樹:Nature Genetics 2015, doi:10.1038/ng.3198より転載。海洋哺乳動物だけ日本語表示を加えている。

象と同じアフリカ獣類からマナティーが、ネコや犬と同じネコ目からセイウチ、そして牛や羊と同じ鯨偶蹄目より鯨やイルカと、それぞれの種は別々に進化していても、最終的に魚と同じように泳ぐのに適した形態にたどりついている。このような進化の形式は収束進化と呼ばれ、強い選択圧を研究する一つのモデルとして研究されてきた。環境に合わせた収束進化といっても、もちろんラマルク理論のように環境に合わせて変化した形質をそのまま遺伝できると考えるわけにはいかない。選択により収束した形質の背景に、それに対応する遺伝子の変異が必ず存在する必要がある。この問題について研究したのが1月26日Nature Geneticsオンライン版に掲載されたデンマーク・コペンハーゲン大学、スウェーデン・ウプサラ大学、テキサス・ベーラー大学からの論文で、タイトルは「Convergent evolution of the genomes of marine mammals(海洋哺乳動物ゲノムに見られる収束進化)」だ (Nature Genetics, 2015, doi: 10.1038/ng.3198)。

この研究では、図1に示した海洋哺乳動物と陸生哺乳動物のゲノムを比べ、海洋性の哺乳動物に共通に見られるゲノム変化を探索している。期待通り、調べた全ての海洋哺乳動物共通に見られるアミノ酸変異が44の遺伝子で見つかり、その内8遺伝子については、なぜ海洋環境により選択を受けたかの説明がつくという結果だ。まず海洋動物に共通するアミノ酸置換とはどのようなものかについて見てみよう。

図2 上記の論文で収束進化が認められた遺伝子の一つMGP.のアミノ酸配列の比較。上から、牛、イルカ、シャチ、ミンククジラ、犬、セイウチ、象、マナティーの配列が示されている。Nature Genetics 2015, doi:10.1038/ng.3198より転載。

MGPとは、Matrix gla proteinの略で、ビタミンKのメンバーのカルシウム結合タンパク質だ。機能として、骨を含むカルシウム代謝に深く関わっていることがわかっている。図2からわかるように、8種類の哺乳動物全てでアミノ酸配列は極めてよく保存されているが、93番目のアミノ酸は、全ての海洋哺乳動物でイソロイシン、一方、陸生哺乳動物ではロイシンで、目を超えて海洋性か陸生かでどちらかのアミノ酸に収束している。カルシム結合タンパク質は海洋性と陸生の哺乳動物でもともと大きな変化があることは予想されていた。私たち陸生動物では、水生動物のようにカルシウムを皮膚から水中に排出することはできない。したがって、骨をカルシウム貯蔵庫として使い、血中カルシウムを調節するよう進化した。そのために毎日骨を作ったり壊したりすることでカルシウムの出入りを調節しなければならない。おそらく海洋性哺乳動物へと進化に伴うカルシウム代謝全体の変化と、このゲノム収束は相関しているのではと考えられる。

海洋生活による収束の例として因果関係がわかりやすいのは、酸化還元に関わるグルタチオンだ。イム(Yim)らはすでにグルタチオンのような抗酸化物質が、海洋動物が息を止めて深海に潜る時に発生する低酸素ストレスに重要な役割を果たしていることを示していた(Yim et al, Nature Genet.46:88 ,2014)。図3にこのグルタチオン代謝に関わる経路図を示すが、この経路に関わる酵素のうち緑と赤のボックスで囲ったANPEPとGCLCに図2で示したのと同じ海洋性の哺乳動物特有のゲノム収束が見られている。一つの代謝経路に関わる2つの酵素で収束進化が見られたことは、確かにこの経路が海洋生活に重要であることを語っている。これらの結果から、環境による選択がゲノムレベルの収束進化を引き起こしていることがわかる。


図3グルタチオン代謝経路。同じ論文から転載しているので、全て英語表記だが、それぞれの分子の名前は無視していい。この経路に関わる2つの酵素GCLCとANPEPで収束進化が見られることに注目。

しかしよく考えてみると、もともと海に棲んでいた脊椎動物がまた海に帰ったわけで、ゲノムの方でも最初から収束する道筋が準備できていたと意地の悪い見方もできる。したがって、本当の収束を調べたい場合は、これまで全く存在しなかった能力が別々の種に現れた時ゲノムに収束が見られるかどうかを調べなければならない。この課題に挑んだのが、コウモリとイルカゲノムを比べたロンドン大学からの論文だ。タイトルは「Genome-wide signature of convergent evolution in echolocateing mammals(反響定位(音波で位置探知)を行う哺乳動物のゲノム全体に見られる収束進化の痕跡)」だ(Parker et al, Nature, 502:230, 2013)。この論文で収束進化モデルとして狙いをつけた能力が反響定位能力、すなわちソナー能力だ。コウモリもイルカも、音波の波形や持続時間などで違いはあるが、超音波を発生させ、返って来た音波を分析することで位置測定を行っていることが知られている。イルカは鼻の中に音波を生成する袋を持っており、それにより短い時間だけ超音波を発生させ、メロンと呼ばれる脂肪組織を通して音波を収束させ外部に発射する。この音波が反射してきた音を下顎の神経で感知、脳で情報処理して対象を見分けている。コウモリは、口腔や鼻腔から超音波を持続的に発し、反射してきた音波を大きな耳で感知することで、反響定位を行っている。同じ反響定位と言っても、発射する音波の性状も違えば、感知する器官も違っており、両者は全く別物と言っていい。しかし、超音波の発生や感知、また連続的に感知する音の情報処理という面では共通性も多く、機能のどれかで収束進化が見られる可能性もある。


図4:コウモリとバンドウイルカを含む哺乳動物の系統樹。説明は本文を参照。英語表記は全て哺乳動物の種類の英語名。ParkerらのNature 502:230,2015論文より転載。

これを調べるため、コウモリ、バンドウイルカを含む18種類の哺乳類ゲノムを比べたのがこの研究だ。まず、できるだけ多くの遺伝子を平均化して系統樹を書描くと図4aのようになる。イルカ(青で示されている)はコウモリとは遠い関係にあり、牛と同じ仲間に属する。一方コウモリは系統的にYinpterochiopteraとYangochiroptera(定訳はない)に分かれるが、後者は全て反響定位能を持つ(図では茶色で示している)。前者はさらに、反響定位能を持つ種と(茶色)、大きな目で餌を捕獲する反響定位能のない種(図4ではオレンジ色)に分かれる。この図からわかるように、多くの遺伝子を平均して計算した系統樹での距離と、反響定位能とは一致しない(例えばコウモリではYinpterochiopteraとYangochiroptera両方に分布している)。しかしもし反響定位能が獲得される過程で、特定の遺伝子に共通の変化が起る必要がると仮定すると、その遺伝子だけを使って描いた系統樹は通常の系統樹とは大きく違っているはずだ。この研究では、コウモリが別れた後、次に反響定位を持つ群と、持たない群に別れたと仮定した時に描ける系統樹(図4b)、および全哺乳動物が反響定位能をベースに別れたと仮定して描ける系統樹(図4c)を仮想モデルとして描いて、この仮想系統モデルに近い系統関係を示す遺伝子を計算で探し出している(図5)。


図5:反響定位能に相関する収束遺伝子の探索。ParkerらのNature 502:230,2015論文より転載。説明は本文参照。

どちらのグラフも右に平均的系統関係、左に反響定位能をベースにした時の系統関係を配置して、それぞれの遺伝子の系統関係がどちらの系統樹に近いかをプロットしている。普通の系統樹から離れ、反響定位能をベースにした仮説的系統樹に近い遺伝子ほど、収束進化が見られると言える。結果は図に示す通りで、青と緑で囲まれた遺伝子が、反響定位能という形質獲得のために収束進化したと考えられる。では収束進化を起こしたのはどの遺伝子か?期待通り、聴覚に関わる遺伝子(緑のボックス)がどちらの比較でも濃縮してくる。ただ不思議なことに、青のボックスで囲った遺伝子はこれまで視覚に関わると考えられていた遺伝子だ。なぜ視覚に関わる遺伝子が、反響定位という形質が選択される時収束するのか。面白い問題が残ったようだ。このように、多くの種のゲノム解析が進んだ結果、ゲノムレベルでの収束進化が起こっている可能性はますます強くなってきた。しかし、それぞれの遺伝子に起こった収束進化過程を本当に説明できるようになるには、ゲノム研究だけでは足りないだろう。自然選択とゲノムの関係を明らかにし、なぜ生命の多様性が生まれるのかを説明するのが進化研究だ。この時、選択によりまず収束が起こる過程は最もわかりやすく、これから研究が進むと期待できる。しかし21世紀は、収束につながる選択の果てになぜ多様性があるのかを説明しなければならない。この連載の最後はぜひこの問題を考えてみたい。

[ 西川 伸一 ]

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