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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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アゲハチョウのシンポジウムを開催します

2016年4月15日

尾崎 克久

昆虫でモデル生物といえばショウジョウバエとカイコのことですね。世界中に研究者がいて、共通の生き物を使って共通の条件のもとで様々な実験が行われています。そうすることで、モデル生物について多くのことが深く理解されています。多種多様な生物たちも基本的な部分は共通していることが多いので、モデル生物で得られた知見を応用して、モデル生物ではない生き物たちのことについても理解が進んでいきます。生物学の牽引役とも言えるのが、モデル生物の存在ですね。

かつてはモデル生物と非モデル生物の間には歴然とした差があって、アゲハチョウのような非モデル生物を研究材料に用いていると、挑戦することすらできない研究がたくさんありましたが、近年は実験技術の飛躍的な進歩があって、その差はとても小さなものになりつつあります。現役研究者の皆さん、これから生物学の世界に飛び込む若い世代の人たちにとって、いい時代になったものだなぁと思いませんか。

反対に、モデル生物を使っていては理解できない生命現象もたくさんあります。アゲハチョウ科昆虫を例にすると、幼虫が特定の植物だけを食べるので、植物が作り出している化学成分を手掛かりにして成虫が産卵場所としての植物を選択するという仕組みがあり、食草の変更が種分化(進化)の出発点になっているということが知られています。このような異種生物間の相互作用がどのような仕組みで成立するのだろうかという疑問を投げかけたときに、研究材料としてショウジョウバエやカイコを使っていてはその答えに近づくことはとても困難である、というよりほぼ不可能に近いことでしょう。このような研究課題に関しては、アゲハチョウこそが"モデル生物"なのです。

いくら僕一人が「アゲハチョウこそモデル生物だ!」と叫んだところで、多くの研究者が研究材料として利用できなければモデル生物とはなりませんが、実はそのための条件が整っている昆虫でもあるんです。アゲハチョウは、当ラボが開発した人工飼料飼育法によって簡単に飼うことができます。そして身近な場所で比較的簡単に採集することができます。そう、現代的なモデル生物となり得る条件を、しっかり揃えている昆虫であると言えるでしょう。

では、アゲハチョウの研究環境がこんなにも整っている理由はなんでしょう?

それは、日本の研究者が世界に先駆けて、アゲハチョウについて多くの研究成果を残してくださっているからです。その代表として、本田計一名誉教授(広島大学)と西田律夫名誉教授(京都大学)のお二方が挙げられます。両先生が、アゲハチョウに生の葉と同等に卵を産ませることができる産卵刺激物質(化合物ブレンド)を丁寧に解明してくださっていたことが、アゲハチョウを用いた研究の礎となっています。

2016年7月16日、JT生命誌研究館の特別企画として、本田・西田両先生をお迎えしてアゲハチョウのシンポジウムを開催いたします。ぜひ多くの方々に足をお運びいただければと思います。

[ チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 尾崎 克久 ]

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