ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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第51回日本節足動物発生学会大会に参加して

2015年9月15日

蘇 智慧

もう3ヶ月前になりますが、福島県の裏磐梯で開催された第51回日本節足動物発生学会大会に参加しました。10年前にこの学会のことを知り、その後、時々参加してきました。3年前の大会で招待講演によばれた時にも、この学会のことをラボ日記に書きましたが、一言でいえば、歴史のある、小さな、アットホームな学会です。

今年の大会の招待講演には、ドイツのフリードリヒ・シラー大学イェーナのRolf Georg Beutel博士による"The evolution of megadiversity in Hexapoda (Arthropoda)"という講演がありました。Beutel博士は、最近大量の分子情報を用いて構築された六脚類(広義の昆虫類)の系統樹(Misof ら, 2014, Science; Beutel博士もこの論文の共著者の一人)に基づいて、昆虫類の起源、系統関係、多様性と進化について幅広く話されました。博士の講演要旨には太字で強調している文章がいくつかあり、そのうちの2つは"Evolutionary scenarios without sound phylogenetic basis are problematic"と"Evolutionary scenarios are only as good as the underlying phylogenetic hypothesis. The picture can change radically when long accepted systematic concepts turn out as wrong"でした。ここに和訳はしませんが、要は進化的シナリオを作るために、系統関係は極めて重要なベースであることを強調していることです。講演の中でもいくどそのことを強調していました。その考えに非常に共感ができて印象に残りました。

系統樹ごとに進化的シナリオが作られますが、信頼性の低い系統関係に基づいて考案した進化ストーリーは、いくら立派であっても、弱い基礎に建てられた高層ビルのようなもので、いつでも崩れる可能性があります。我々の研究対象でもある節足動物の系統関係を例に説明してみたいと思います。節足動物には、鋏角類(クモ・カブトガニなど)、多足類(ヤスデ・ムカデなど)、甲殻類(エビ・カニなど)と六脚類という4つの動物群が含まれています。従来、六脚類と多足類が近縁であると考えられていましたが、近年の分子系統学の研究によって六脚類が甲殻類に近いことが明らかになりました。従来の系統関係に基づく進化シナリオは以下のようなものでした。多足類と六脚類の共通祖先が陸上進出を果たし、その後、陸上で両者が分岐して多様化しました。また、陸上生活に必要な気管系の獲得進化も両者の共通祖先の段階で生じました。しかし、現在の系統関係(六脚類と甲殻類が近縁)によれば、両者の祖先が別々に陸上に進出し、共通にもつ気管系の獲得進化も独立に起こったという、全く異なる進化シナリオになります。進化研究において系統関係がいかに重要なのかご理解できたでしょうか。今回の学会参加で信頼性の高い系統樹の構築の重要さを改めて感じました。

余談になりますが、今回の大会の開催地の最寄り駅である猪苗代駅について少し紹介してみたいと思います。猪苗代駅は猪苗代湖の北にあり、長閑な田舎の小さな駅で、東北の駅百選選定駅でもあります(図1)。昔ながらの改札口で駅員が直接切符を回収してくれました。このような駅に出会える機会が最近ほとんどなく、懐かしかったです。駅でバスを待っていたところ、大勢の小学生たちが先生とともに駅にやって来ました。どうもこの駅にきた人たちにインタビューをするようです。「どこからきましたか」、「何をしにきましたか」・・・私も質問を受けました。バスが出発するまでまだ時間がありましたので、駅の周辺を歩いていたところ、野口英世博士の石像を発見しました(図2)。


図1.猪苗代駅

図2.野口英世の像

[ DNAから進化を探るラボ 蘇 智慧 ]

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