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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【系統解析の目的】

2013年3月15日

蘇智慧

何故今更この話なのかという感じもしますが、実は他分野の方々には「何故系統解析をするのですか」とか「系統樹だけで論文が書けるのですか」とか「系統樹を作って何が分かるのですか」とか・・・時々聞かれるので、あえて今回はこの話をラボ日記にしてみました。

地球上には、細菌から真菌類、動植物に至るまで、数千万種の生き物が生息しているが、それらはすべて共通祖先から進化してきたものであります。従って、地球上にいるあらゆる生き物は、ただ1本の巨大な系統樹の中のどこかに位置づけられるはずです。もしその系統樹を描くことができれば、地球上の生き物が進化してきた道筋が分かることになります。その系統樹を作成する、つまり、個々の生きものの「系統樹上にある位置づけ」を明らかにするのは生物系統学の役割であります。生物の系統関係を明らかにするのは、生物進化の歴史を知ることであり、多種多様な生物がどのように進化してきたのかを理解するためにも不可欠なことです。

例えば、類人猿の系統関係について、従来ゴリラ、チンパンジー、オランウータンなどの大型類人猿は共通祖先から分かれてきたグループで、ヒトはそれに対置する系統であると考えられていた。しかし、1960年代以来の分子系統学の研究によって、チンパンジーがゴリラやオランウータンなどよりもヒトに近縁であることが判明しました。つまり、ゴリラ、チンパンジー、オランウータンとヒトの間に、最後に分岐したのはヒトとチンパンジーであり、両者は直接祖先を共有していた。これが立派な研究成果であることには誰もが異論を唱えないでしょう。

このように、近年の分子系統学の研究によって、これまでに不明だったさまざまな生物分類群の系統関係が明らかになり、生物の進化に対する理解が大きく深まってきたのは事実です。分子系統解析の手法は現在生態学や行動学など多くの分野にも応用されるようになり、役割が広がっているが、系統樹が主役ではない場合があるために、系統樹作成は研究ではないような誤解が生まれているかもしれません。しかし、生物の系統進化の分野では、生物の系統関係を明らかにするのが目的のため、系統樹はいつまでも主役です。

[ DNAから進化を探るラボ 蘇 智慧 ]

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