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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【NGS現場の会 第二回研究会に参加しました】

2012年6月1日

尾崎克久

約30年にわたって活躍している「サンガー法」とは異なる方法で塩基配列を決定する「次世代型シークエンサー(NGS: Next Generation Sequencer)」が登場して8年、技術の進歩とともに身近な存在になってきました。小型で安価な製品が登場し、キャピラリー式のシークエンサーと同程度の費用で導入することが可能になりました。

その特徴はなんと言っても、出力されるデータ量(スループット)が爆発的に増加し、そこから得られる様々な生物学的情報も莫大になることにあると言えるでしょう。その技術的進歩の早さは驚異的で、技術革新の早いものの代表として扱われるコンピューターをも圧倒します。そんなに遠くない未来には、現在PCR装置がほとんどの生物学系研究室に設置されているのとと同様に、パーソナルタイプのNGSが普及していく可能性すらあるだろうと考えています。

生命誌研究館でも、今後の研究計画の必要上、パーソナルタイプのNGSを導入する方向で検討しています。パーソナルタイプとはいっても、その性能(スループット)は、使い方によっては我々のラボだけで昆虫ゲノムを読んでしまうことも夢ではないかもしれないというほど素晴らしいものです。

機種選定や導入後の活用方法も含めて、できるだけ多くの情報を集めたいと考え、「NGS 現場の会 第二回研究会」に参加しました。
http://ngs-field.org/

NGS現場の会は、NGSが身近になってきたとはいえまだまだマイナーな存在で、技術的ノウハウの蓄積もこれからに期待という状況なので、実際に使っている人たちやNGSメーカーの人たちが知恵を持ち寄って共有し、徹底的に交流することで発展を目指すというコンセプトなのだそうです。

参加する前はニッチな集会なのかと思っていましたが、第二回研究会の参加者はなんと448人にもなるそうで、「学会」として考えても小規模とは言えません。昨年の第一回集会の参加者は100人前後だったそうですので、(もちろん、運営者の皆さんの多大な努力もありますが)NGSへの注目度の上昇を象徴しているよう感じました。

参加者は若い人が多いということも原因にあるのかもしれませんが、会場はとても活気にあふれていて、研究の未来へ向かって希望に満ちているという印象を受けました。分子生物学勃興の頃も、こんな雰囲気だったのではないかと想像しています。

ウェット系の研究者(実験を通して研究する人たち)もドライ系の研究者(コンピューターでの解析を通して研究する人たち)も入り交じっての研究会でもあるので、発表内容も実践に即したものが多く、どちらの分野の発表も実際に手を動かしている人たちの努力の結晶で、正に「現場の会」の名にふさわしいものでした。DNA・RNAの抽出方法や試薬類の組み合わせによって結果・精度が異なっていたり、解析時のちょっとした工夫で得られる情報が飛躍的に増加したり、惜しみなく公表されている数々のノウハウがとても勉強になりました。普通の学会では Results (結果)に最もスペースを割きますし重視されるのですが、Methods (材料や方法)が重点になっている印象が強いというのも「現場の会」ならではでしょう。

参加者によって交わされる Twitter 上の会話では、NGS を Next Generation Sequencing ではなく New Genome Science に変更してはどうかという意見も出されていたようです。将来的には自然な流れとして、ゲノム科学現場の会という位置づけになっていく可能性があるのではないだろうかと、ワクワクしながら次回以降も是非参加していきたいと考えています。

[ チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 尾崎克久 ]

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