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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【なぜ・どうして】

益田真都香 先日大阪大学に修士論文を提出しまして卒業の目処が無事に立ちました。しかしあまり気を抜く事は出来ません。直ぐに修士論文業績発表会という、15分間の口頭発表と10分間の質疑応答で構成される卒業への最終試験があります。発表では2年間の集大成というだけあって、先行研究を確実に理解し、自身の研究の面白さを伝えることが求められます。これは、就職活動でこれまでの経験を総動員してアピールした事に似ていると思えました。しかしながら、発表の対象は自身の経験ではなく研究ですので、いかに客観的に面白く伝えるかは本当に難しいですね。分野が違えば見方も違うので、他分野の先生から受ける質問には予想すら出来ないものが多く、今緊張しながら対策を練っているところです。
 実際に私が研究している神経堤細胞は面白く、脊椎動物のみに存在し、脊椎動物特有の頭部構造を形づくる細胞です。脊椎動物に特有の頭部構造とは、中枢神経(脳)が神経堤由来の頭部骨格に覆われ、感覚器官が存在する構造であり、「真の頭部」として脊椎動物を定義する存在だと言われています。よって神経提細胞は、脊椎動物の進化を考える上で大変重要で面白い細胞だと思えます。その一方で、脊椎動物でない昆虫にも頭は存在します。そして神経系もありますので、脊椎動物の頭部との明確な違いは何かという事を指摘されると大変困惑します。さらに、主要な遺伝子というものは無脊椎・脊椎動物を問わず様々な動物で見つかり、保存されています。実は神経堤に必須の遺伝子であっても、もとはショウジョウバエで見つかったものも多いです。
 神経堤のないショウジョウバエでそれらの遺伝子がなにをしているかを問うような質問に、私は正直なところうまく答えられません。ある因子の存在が重要だと示唆した私の研究が、このような「なぜ」を知る一助になればと願うばかりです。知れば知る程、新たに湧いてくる「なぜ・どうして」という疑問は絶えませんが、2年間の期間は本当に短く、私の研究が解き明かせた事はわずかばかりです。入学当時はもっといろんな事が出来るだろうと考えていました。しかしながら、入学時には予想していなかった研究・表現の難しさが学べたのも、生命誌だからだと考えています。生きものの生きていく姿から、強さとしなやかさを学べた私はしたたかにもなり、春からは地元の佐賀で働きたいと考えています。
 読んで下さった皆様、ここまでお付き合い下さりありがとうございます。またどこかでお会い出来る事を楽しみにしております。

[カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 益田真都香]

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