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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【Ecologyとエコロジー】

岡本朋子 最近よく耳にする“ecology (エコロジー)”と聞くと、皆さんは何を想像されるでしょうか?おそらく多くの人は“環境に優しいこと”という意味が思い浮かぶのではないでしょうか?けれどこの”エコロジー”という言葉、本来は生物学の中の一つの分野を指す用語で、日本語では「生態学」といいます。“エコロジー”が本来の生態学ではなく、環境保護という意味合いで使われるのは日本だけです。(ややこしいので生態学という意味では“ecology”、環境保護という意味では“エコロジー”と使い分けた方がいいのかもしれません。)
 生態学は生物とそれを取り巻く環境との関わり合いを扱う分野です。この “環境”とは、他の生き物や水や温度などの非生物まで様々なものを指します。中でも、生物同士の関わり合いは “食う-食われる”の関係や “持ちつ持たれつ”の関係などがあります。私の専門のchemical ecologyでは、生物同士の関係に関わる化学物質に注目し、その役割の解明を目指しています。
 では、生物間相互作用に関わる化学物質とはどんなものがあるでしょうか?私たち人間に最も馴染みが深いものの1つとして花の匂いがあげられます。人間にとって、芳しい匂いは花の美しさを形作る重要な要因ですが、花にとっては、花粉を運んでくれる動物に向けて送られるラブレターのようなものです。夜に爽やかな匂いを放つ花では蛾(鱗翅目)が頻繁にやってきますし、フンチュウ(甲虫目)が花粉を運ぶ花からは糞のような臭い匂いがします。
 匂いを使って動物を呼び寄せ、うまく受粉できた植物はやがて種をつけ、それらはまた果実を食べる動物や風、水などによって遠くへ運ばれます。種が散布された場所の土壌が発芽に適していれば芽が出せますが、周りの植物によって日光が遮られてしまうと発芽のチャンスを待たねばならないかもしれません。このように生き物が生活するだけで、それが他の生き物の “環境”になります。また、生活に必要な多くの環境のうち、たった1つが欠けただけで生存や繁殖ができないこともあります。人間自身も生き物たちの環境になることを意識して、“エコロジー”に取り組んでいきたいものです。

[DNAから進化を探るラボ 岡本朋子]

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