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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【卵に打て!(2)】

秋山-小田康子 3月も半ばとなり、今年度も間もなく終わりです。私たちのグループでは、この3月で金山さんが5年間の研究生活を終えて就職します。苦しい時期もあったようですが、本当に良くがんばったな、と思います。彼のデータを中心にまとめた論文が今、とある科学誌の審査に回っています。ラボの全知力を注いで(?)、この1年、かかりきりになっていた論文です。うまくいくことを祈るばかりです。私自身はというと、試行錯誤する毎日でした。ようやく次の仕事をどのように展開させるかぼんやりと見えてきたというところでしょうか。ただ、この1年で、クモの卵へのマイクロインジェクション(微量注入)の腕は非常に上達しました。マイクロインジェクションのことは以前の金山さんのラボ日記にもありましたが、あれから私たちのグループでも日常的に行うことのできる実験として確立しました。方法は金山さんの1つ目の論文にまとめてあります。これは、細胞数が16から128個の時期の卵の1つの細胞に、蛍光色素やmRNA、二本鎖 RNAを極細のガラス針で注射するのです。この方法を使うと卵の一部の細胞だけを蛍光で光らせたり、一部の細胞だけで注目する遺伝子のはたらきを抑えたりすることができます。審査中の論文でも、この方法を使って出した金山さんのきれいなデータがあり、それが重要な位置を占めています。私も一部のデータを出すために秋から冬にかけて多数の卵に注射をしました。私のデータが出ないがために論文が書けない、なんていうことになったら大変。遊びの誘いも断って、元気な卵が生まれたら曜日に関わらず注射、固定、染色。結構、必死でした。クモの卵は直径0.5 mm程の大きさです。動物の卵としては、さほど小さい方ではありませんが、つぶさないように扱うには、かなり気を遣う必要があります。私はもともとあまり器用な方ではありませんので、はじめは数十個の卵をピンセットで並べるだけでぐったり疲れきっていました。でも、今では苦もなく1時間で100個以上の卵に注射できます。論文のデータのために必死に注射したおかげかも知れません。技術に対する壁がなくなると、よりチャレンジングな気持ちになれます。また何か面白い発見と出会えるように、こつこつと実験しようと思います。

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[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子]

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