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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【変わらないものと変えるべきもの】

金山真紀 前回の日記で最後と書いたのにも関わらず、再びラボ日記の依頼が回ってきました。最後になりましたが、読んでくださっていらっしゃいました皆様、ありがとうございました。

<近況報告>
 先日、無事に博士後期課程の業績発表会を終了しました。ここに至る五年間をつらつらと書いてもよいのですが、サイエンティストライブラリーの偉人たちに比べれば何もありません。ただ、こんな大学院生一人も何かに悩み、苦しみ、時には実験の成果に驚き、たわいもないことに喜びながら、生きている。たかが大学院生とくくられがちですが、されど大学院生であり、そこには確かにドラマが詰まっていました。おもてには現れませんが、これも一つのライブラリーでしょう。ここで私が申し上げなければならないのは、「感謝」という言葉でありましょう。本当に頼りなかった私でしたが、いつも叱咤激励の中に支えてくださった小田さん、やすこさん、野田さん。そして大学院生として共に考え、悩み、笑えることのできた春田さん、西口さんをはじめとするBRHの学生の皆様。そしてBRHの研究部門だけではなく、中村館長、表現セクターの皆様、事務の皆様から、私は様々な考えや思いを聴くことができ、共有できたことを嬉しく思います。また、日本だけでなく海外にも仲間ができましたが、そうしたたくさんの方々の支えがあってこその今の私があります。
 来年度、私はいわゆる研究とは違った分野の企業で働きます。新しい挑戦が待っているので小さな不安を抱えながらも、わくわくしているのです。

<生命誌研究館から教えてもらったこと>
 昔から、雑草や昆虫等、生き物の名前を覚えることが好きでした。今思えば、そうすることで、知らなければ目に入らなかった世界が、生き生きと輝く瞬間があらわれるようになるからです。大学時代には、その感覚は現代生物学の世界にはいらないのかと感じましたが、この生命誌研究館でそれが大切なことだと、再び教えて頂きました。きっとどこの分野に行ってもそうで、世界が広がる感覚を大切にすることが、研究だけでなく人間や様々な物事の関係にもつながってゆき、生きることを楽しくさせるのだろうと考えています。

<そして、生命誌研究館に向けて>
 生命誌研究館がまもるべきもの、そして変わるべきものとはなにかを考えています。
 例えば、季刊生命誌が昔から続いていることは誇るべきことで、形はウェブやカードに移行していきましたが、根幹にあるコンセプトは揺らいでいないという事実はとても素晴らしいことだと感じます。 蝶の食草になる種を各地に送った全国区を巻き込んだ表現の試みは、とても面白く思いました。こうした新しい表現が次々と生み出されるカードは今も楽しみにしています。さらに、科学を表現することを本当に研究するのなら、私の目には、まだまだ挑戦することはあるように感じます。大きく言ってしまえば、その挑戦が失敗してもよいはずです。意味のないことをしてはいけませんが、コンセプトがあってするのなら失敗に意味があります。例えば、主に研究部門が毎年外部者セミナーをやっていますが、表現のプロフェッショナルと話し合う(サイエンスライターやコミュニケーターといった身分の方だけでなく、本当に表現だけに特化したプロがやって来て、表現セクターや研究部門と議論するような)セミナーがあっても面白いと感じます。異分野の融合は難しいでしょうが、そこをつなごうという人がいるわけですから、生命誌研究館だけでなく、日本のサイエンスは実験教室だサイエンスカフェだ、という前に、真剣にサイエンスの表現とは何かを議論してみる場があっていいのではないでしょうか。
 研究部門がすべきことは山のようにあるでしょうが、その自分自身の研究の山に埋もれていては次のステップに行ける気がしないのです。自分を賢くしてしまうとその論理から離れられなくなるので、柔軟に、ラボの交流がもっとあっていいと思います。それが次の新しい価値を作っていくことではないでしょうか。研究部門が集まる意味はそこからうまれるのではないでしょうか。

<そして、最後に>
 生き物がDNAをもとにした共通のシステムを変えることなくここまで多様化したように、私たちの頭ももっと多様になれるはずで、だからこそ多様であることが認められるはずです。BRHのまもるべきコンセプトが「生命誌」ならば、もっともっとそこから自由にし、変えられる部分があるはずです。
 これから、金山真紀にはずっと変わらないものがあり、ずっと変わっていくものがあるでしょう。だから、しなやかに、失敗しながら、それでいて強く挑戦できるのだと信じます。それが生き物の貫いてきた論理であり、私がこの五年間の中に確信した論理です。

[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 金山真紀]

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