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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【研究員レクチャーに実験室の見学を加えるという試み】

尾崎克久 普段馴染みの無いものに触れる機会というのは、興味深い発見を与えてくれるものです。参加した事のない分野の学会や研究集会など、新しい知識を沢山得る事ができますし、発表者と議論をする事は実に刺激的な体験になります。
 生命誌研究館でもいくつか新しい試みを行っていて、セミナーを積極的に開催する事で今年度だけでも興味深い話を沢山聞く事ができました。特に、先日開催された「魚類の進化と多様性」という外部の研究者をお招きしてのシンポジウムは、僕は全くの専門外だったため目新しい話題ばかりで、とても有意義な時間を過ごす事ができました。

 僕自身、これまでに館内・館外を含めて多数のレクチャー(講演)を行わせて頂き、研究についてお話をする機会に恵まれました。多くの方にとっては始めて触れる話題であるためか、興味を持って聴いて頂く事ができましたが、個人的な経験として以下の問題点を感じています。

・プロジェクターを使って図を表示しながらの発表では、一般の方は何となくかしこまってしまって質問や意見をしづらい。
・実験器具や実験室の写真を映写しても、実物を見た事がないとイメージや雰囲気をつかみにくい。

 誰かが質問をする事で、会場にいる皆さんの理解を深める手助けになりますので、質問をしてくださる方がいらっしゃるのは実はとても大切でありがたい事なんです。でも、研究者や学生のように、質問や議論というものに慣れている場合は別ですが、そうではない一般の方にも質問をする事は「怖くない」と思って頂く工夫が必要でしょう。こういった問題点を改善すべく、6月に担当させて頂いた「研究員レクチャー」では、以下の試みを行いました。

・自分が演壇にいて、来館者が座席にいるという形ではなく、もっとラフな形にする事で質問をしやすい雰囲気を作る。
・レクチャーの中で話題になった実験機器を実際に見て頂いて、それを切っ掛けにして質問やご意見を引き出す。

 これは紙芝居形式で研究の話をさせて頂くという試みを何度か行って、すぐ近くでお話をする事で比較的質問や議論を行いやすい雰囲気が作りやすいという手応えがあるものの、少人数にしかお話ができないという問題を感じて、プロジェクターでの発表との良いとこ取りをしてみたいと考えた結果です。
 いつも通りのプロジェクターを使った研究紹介を終了した後、参加して頂いた皆さんを研究室にご案内して、カルシウムイメージング実験に使用している改造微弱発光計測装置をご覧頂きました。
 期待通り、「こんなに小さな機械だったとは意外!」という感想が次々に出て、それを切っ掛けに実に多くの質問を頂きました。提出して頂いたアンケートを拝見しても、今回の試みは概ね成功だったと思います。
 研究の現場では、セミナーなどを通じて発表を聞いて、質問を切っ掛けに演者と議論をして理解を深めるという作業が日常的に行われていて、研究を遂行する上で欠かせない重要なものとなっています。今回のレクチャーに参加して頂いた皆さんには、それに近い「研究現場の臨場感」体験をして頂けたのではないかと自負しています。
 生命誌研究館の特徴の一つに、研究部門があって最先端を目指した研究を行っているという事があります。来館者に研究の現場の臨場感を味わって頂けるというメリットを活かすため、イベントなどに工夫を凝らす余地はまだまだ沢山あるのだなと実感しました。

[チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ 尾崎克久]

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