ラボ日記
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【都会に生きる】
 
楠見淳子
 鉄筋やコンクリートで作られた人工的環境に囲まれた生活は、便利な一方、ストレスがたまりやすく、人によってはなかなかない馴染めないこともあるものです。今回は、そんな都会の片隅に生きる植物のお話を紹介したいと思います。(引用文献)
 主役となるのはCrepis sanctaというキク科フタマタタンポポ属の一種。ヨーロッパ南東部や地中海東部に分布しており、日本のタンポポと同じく、郊外の荒れ地や畑のほか、道路脇など市街地にも生える一年草です。タンポポとよく似た黄色い花をつけるのですが、種子の形態が特徴的で、綿毛をもち風にのって飛散する「軽い種子」とそのまま重力に従って根元におちる「重い種子」の両方をつけます。新しい繁殖地を拡げるには「軽い種子」が適しており、繁殖地がパッチ状になっているような場合は「重い種子」をつける方がよりリスクが低いと考えられています。つまり、大陸の平原では遠くまで飛べる「軽い種子」の方が有利ですが、絶海の孤島では根元近くに落ちる「重い種子」の方のリスクが低いといえます。一方、都会で植物が生きられるのは街路樹の根元などのわずかなスペースに限られています。それでは、どちらのタイプの種子が都会での繁殖に適しているのでしょうか?
結論から言うと、答えは「重い種子」のようです。この論文の中で著者らは、
1)都市部(南フランスのモンペリエ)の「軽い種子」は、発芽に適しないコンクリートで舗装された場所に落ちやすい。
2)都市部のC. sanctaは郊外(モンペリエから30Km程離れたところ)のC. sanctaに比べ重い種をつける比率が高くなっている。
3)その比率の変化が、12年間という短い期間で起こっている。
ということを明らかにしました。12年前というのは、道路に歩道が作られた時期だそうです。都会のC. sanctaは、短い間にその繁殖戦略を有利な方に変えつつあるということになります。逆に、都会では繁殖戦略をめぐって激しい生存競争が起こったとも言えるでしょう。
 この記事を読むと、生物のもつ適応力、柔軟性に感心させられるだけでなく、人間の作ったものが他の生物に与える影響について考えさせられます。自然界では、このような極端な環境の変化はそうそう起こりえないでしょう。
 皆さんはどうお感じになりますか?

<引用文献>
P.-O. Cheptou et al. (2008) PNAS(米国科学アカデミー紀要)vol.105, no. 10
<参考文献>
E. Quill SienceNOW Daily News 3 March 2008



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