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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【研究技術】

吉田昭広
 2ヶ月ほど前からですが、「当館」の出版物に掲載される記事について、担当者と幾度か「やりとり」を続けました。「研究者の道具箱」という記事で、文字どおり研究に用いる「道具」の話を通して研究を紹介する、というものです。ちょうど最近よく行う、モンシロチョウのサナギのハネの「免疫組織化学実験」で使っている「道具」を取り上げることにしました。
 その「道具」とは、カミソリの刃を小さく割って「柄」に取り付けた「(自家製)ナイフ」と、先の細いピンセットの2つです。ナイフもピンセットも、目的に合うように、先端を鋭く緻密に研がねばなりません。

 この「道具」のつくり方、使い方を教わったのは、大学院に入ってしばらくした頃で、カエルの足の筋肉から筋繊維(細胞)を1本だけ取り出す方法を習ったときでした。この筋肉は、筋繊維と呼ばれる(特殊な)細長い細胞が多数束ねられたものです。顕微鏡下でこの道具を使い、筋肉から筋繊維を少しずつ取り除いていきます。(この操作はていねいに行わないと、筋繊維がやたらと収縮してうまくいきません。)そして、最後にきれいな筋繊維を1本だけ残します。少しでも「傷」がついていると、その後の実験には使えません。
 当時居た福岡から、東京の大学の医学部の先生のもとに「派遣」され、しばらく滞在して「技術」を教えてもらうことになりました。実際にそこで習い始めたときは、「不器用な自分に、こんな難しいことが本当にできるのだろうか?」と思ったし、「いつまでかかるのだろうか?」と途方に暮れました。とにかく「きつい」時間が続きましたが、2,3日ぐらい経ったときだったでしょうか、突然「あっ、これで後は練習を続ければ必ずできる。」という気持ちになりました。それですぐに、教えていただいた先生に「後は帰ってから自分で練習すればできると思います。」と伝えたことを覚えています。

 このとき教わった技術を今も利用しているのは偶然です。教わった技術を、そのうち使わなくなってしまうことも少なくないと思います。ただ私の場合、その後克服すべき様々な実験上の課題に直面したとき、「あのときのほうが難しかった。」「あれよりはましだ。」と思うことがよくありました。これから先この「技術」を使わなくなったとしても、そのときの経験はまだ役立ち続けてくれそうです。




[チョウのハネの形づくりラボ 吉田昭広]

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