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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【気がつけば,朝】

山田 歩

 マンガ,読みますか?

 私には,新刊が出たら必ず買って読むマンガがいくつかあります.
 そしてその中には,『生き物ネタ』や『科学もの』を扱うマンガがいくつもあります.それは,全然『教育的』ではなくて,つまり本当のことを描いているのではありません.筆者が考える,想像の世界の話です.でも,科学だなーと思うんです.

 たとえば,錬金術の話.
 その世界では,『等価交換(質量保存の法則)』のもとに錬金術が可能です.元の物体を理解して,いったん分解して,再構築するということを一瞬で成し得る技を,この世界では錬金術と呼んでいます.しかし,錬金術をもってしても作り出せないのが,生命だそうです.人体の構成成分は詳細までわかっているのに,足りないものはないはずなのに,人を作り出すことはできません.
 『人体の構成成分すべて』と,『生きている人』を隔てるものは何なのか.

 また別の,蟲の話.
 その世界には,『蟲(むし)』と呼ばれる,『生と死の狭間のもの』が存在しています.妖怪や幽霊とも呼ばれるものです.蟲は時に怪奇現象を起こし,その怪奇現象の原因をつきとめ解決するのが,この話の主人公である『蟲師』です.
 ある蟲はとても美しく,それを見た少年は「あれが好きだ」と言います.また別の蟲は,人に取り憑き魂を奪います.その両方に対して,主人公は「良い蟲も悪い蟲もいない.ただそれが,あるままの姿なだけだ.」と言います.

 娯楽で読んでいるのに,はっとする瞬間があります.
 わかっているはずなのに本当には理解していなかったことを,ぽんと突きつけられるような.
 マンガは,書籍と違って,作者のイメージそのものをストレートに受け止められてしまう気がします.自分の想像力の入る余地(タイムラグ)がない.それはある意味で,作者の世界観にとらわれることなのかもしれません.
 でも,それが心地よくて,どっぷり浸かって,あとから『そっかー』と考えてみる.

 フィクションだからこそ,の安心感
 イメージに入り込む感覚
 あとから思い出す時間

 どれもが好きで,気づけば朝になっていることも.
 修士論文が書き上がる2月まで,マンガは封印です.



[昆虫と植物の共進化ラボ 山田 歩]

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