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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【年中行事】

吉田昭広

 昨年もこの頃にラボ日記を担当しましたが、例年この時期になると、実験に使っているモンシロチョウが飛ばなくなる冬場に備えて「休眠蛹(=冬越しするサナギ)」をつくることにしています。(野外で休眠蛹を見つけるのはたいへん困難です。)メス成虫を捕らえて産卵させ、晩秋のような(明るい時間の短い)光条件下の飼育器内で幼虫を飼育すると、その幼虫は「休眠蛹」になります。冬場に必要になったときに、サナギの「休眠」を覚まして羽化させて実験に使います。
 休眠蛹を作りそこねると、何ヶ月か実験のブランクができかねないので、準備には結構神経を使います。今年は例年どおり9月末に採集・採卵をすませるつもりでしたが、9月末から捕らえたメス成虫の産卵数が予想よりはるかに少なく、結局昨日(10月10日)まで、たびたび採集に出るはめになりました。例年と様子がちがって不安でしたが、ようやくたくさん産卵してくれたので、これで何とかなりそうでちょっと安心です。実験材料がなければ研究は滞りかねず、ここしばらくは、採集・採卵・飼育に神経を使わされた毎日でした。

 ずいぶん以前のことになりますが、大学院での学位取得後、研究生の立場で初めてチョウの飼育に携わっていたとき、ある昆虫生理学の研究者から、「採集して飼育がちゃんとできるようになれば、実験の半分は済んだのも同然です。」と言われたことがあります。チョウを扱う前は、ずっと実験動物のウサギを業者から購入して使っていましたので、その頃の私には実感の薄い言葉でしたが、その後いく度も、その言葉を実感する機会があり、「動物学者ならではの言葉でなかっただろうか」と思い返すようにもなりました。今回も含め、折に触れて頭に浮かぶ言葉となっています。

 採集・飼育は今も少しずつ効率化を図って時間をつくるように心がけていますが、(今回のように)思い通りにいかず時間を取られることもしばしばです。それも生きものであることの「あかし」である、と言えるかもしれませんが。



[チョウのハネの形づくりラボ 吉田昭広]

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