ラボ日記
研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【「考えること」と「できること」】
 
吉田昭広

 最近、いくつかのきっかけから、チョウの「鱗粉」について、あらためて考え直す時間が増えました。鱗粉とは、(ご存じの方が多いでしょうが)チョウやガのハネなどに触れると、手にくっつく「粉」のようなもののことです。

 もう20年以上も前になりますが、私がチョウのハネの鱗粉に関する研究に取り組み始めることになったとき、(恥ずかしいことながら)ほとんど予備知識はありませんでした。「1個の鱗粉が1個の細胞である」ことを知って一段と興味をかきたてられ、テーマも「発生生物学」的なものに収束していったことを思い出します。ここしばらく、このテーマの研究は中断していましたが、あらためて考え直してみても、発生生物学上の重要な問題を多数含んでいることを実感します。また以前ラボ日記で、チョウのハネが「情報受信・伝達装置であり、送風装置であり、光学装置であり、…」といった「多機能ディバイス」であると述べたことがありました。ハネがそのような機能を発揮する上で、実は鱗粉が果たしている役割は大きいのです。「チョウのハネ」は、「鱗粉あってのハネ」であるとも言えそうです。

 こんなふうに鱗粉に関する知識は時間の経過とともに増えましたが、「段々わかってきた。」という感覚よりも、むしろ「わからないことだらけだ。」「不思議なことばかりだ。」という感覚が増大していくだけのようにも思います。
 鱗粉という「小さな自然」に限っただけでも、興味のあること、知りたいこと、調べてみたいことなどは、増えていくばかりですが、その中で自分の「できること」が限られているという事実もまた、痛感させられてしまいます。あせらずに、自分にできることをわきまえながら、たとえ小さなことに見えても、できる限りのところまで進めていきたいものです。「鱗粉」について考え直しながら、こんなことも思います。



[吉田昭広]

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