1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【ルール】

ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【ルール】

吉田昭広

 アテネオリンピックが終わって幾日か過ぎてこれを書いています。スポーツ好きの私は、いろんな競技をテレビ観戦でずいぶん楽しみましたので、何となく寂しいような気分がまだ残っています。
 開会式では「選手宣誓」の中で「薬物使用」に触れた部分があり、「ここでそんなことを言うのか。」と唐突な印象を受けたのですが、実際、メダルをはく奪される選手が続出してみると、「時代がそこまで来ている」ことを感じさせられます。私なりに、こんなことも考えてみました。

 「禁止薬物」は健康を損ねる可能性の高いことが、その「禁止」の大きな理由だとは思いますが、競技者の「トレーニング」「競技前の心理状態の調整」によって体内に起こる変化は、体外から「薬物」が入ったのと似た状態であろうと考えられます。「脳内麻薬物質」という言葉があるように。しかし、生理的に体内に分泌される(薬物様)物質が、人為的に注入される「薬物」と違う決定的な点の一つは、分泌される「時期」(または、分泌時の「身体の状態」)と「場所」と「量」が(たいていの場合)極めて適切に決められていることです。ホルモンをはじめ、体内で分泌される生理活性物質は、「時期」「場所」「量」のどれかが違うだけで、別の働きをすることもあります。
 「薬物」の場合、「時期」「場所」「量」を(生体のように)精密にコントロールして与えるのが難しいことが、健康を損ねることになる大きな原因の一つだと思います。しかし、もし正しくコントロールできるようになれば、健康を損ねることなく「効果」をあげることが(実際はともかく)「原理的」には可能です。もしそれが実現して許されると、「楽」をして好成績を出せることがありそうですが、競技者の満足感の質まで変わってしまうでしょう。実際にはそんなことは許されないでしょうし、また許されないでほしいと思います。
 人間はある意味では、「自然界のルール」を破る常習犯とも言えますが、その分、妥当なルールを自分達でたくさん作っていかねばならないようです。

 こんな時期ですので、いっときの「スポーツ医学者」「スポーツ評論家」を気取らせてもらいました。



[吉田昭広]

ラボ日記最新号へ