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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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バックナンバー 【虫好きになった?!・・・】

蘇 智慧
 むし(昆虫)の研究をしていると「子供のときからむし好きだったのですか」とよく聞かれます。昆虫研究者の中ではもちろん昆虫少年出身の方が大勢おられるが、そうじゃない方も少なくありません。私は子供の頃、トンボ、チョウチョウ、ゼミ、コガネムシなどを捕まえたことがありますが、標本などは一匹も作ったことがなく、いわゆる昆虫少年ではありませんでした。昆虫少年だからと言って必ずしも大人になったらむしの研究を続けられるとは限りません。そうじゃなければアマチュアのむし屋はいないはずです。一方、昆虫少年ではなくても大人になってからあるきっかけでむしを研究するようになり、結局虫好きになることもあります。

 私はオサムシの研究を始めるまでカイコの研究をしていました。昆虫はなんで自分の体を、幼虫、蛹、成虫といったまったく違う生き物みたいな形に変えることができるのか、それから何故そのように変える必要があるのか、また昆虫はどうしてそんなに長く眠ることができるのか等々、いわゆる昆虫の変態と休眠に興味を持ちました。人間もこのような機能を進化の過程で獲得していたらもっと悪い環境に適応できるではないかとも思ってしまいました。

 ところが、オサムシの研究を始めてからむしに対する見る目は変わりました。カイコを研究材料にしていた頃、ほとんど成虫になる前に解剖、組織を取り出して潰し、あっという間に形も姿もない溶液になってしまい、後は器械が出してくれるデータだけを信じて研究を進めていくので、カイコに対しては内部の組織や細胞などしか目に見えず、むし全体を観ていませんでした。しかし、オサムシの研究はちょっと違います。個体を解剖して組織(筋肉)を取り出し、DNA を抽出して比べるまではカイコの研究にも似っていますが、得られたデータをもとにしてもう一回むしの姿形を観て比較しなければならないのは違うところです。そこでむしを個体として観るようになり、さらに個体から集団へ、空間的な分布から時間的な進化へという、壮大なむし世界に視野を広げたのです。一個体一個体を眺めているうちに、何とも言えない不思議な形や色彩に多様化してきたオサムシに圧倒され、自分の目でオサムシの生活を観察し、自分の手で捕まえてみたい気持ちが次第に強くなり、研究材料を集める目的もあり、とうとう本格的なオサムシ採集に突入しました。4年前の1997 年でした。これまで毎回の採集旅行で多くの思い出が残され、今は毎年虫採りの季節を楽しみにしており、虫とは切っても切れない関係になりました。


[蘇 智慧]

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