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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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ウィルスとの約束事

2015年11月2日

久しぶりで風邪を引いてしまいました。去年はスルーしたので二年ぶりです。必ず連休に引く。ふしぎなことに例外がありません。年末年始の休みということも少なくありません。今回は9月の連休でした。風邪の方はきちんと連休前の金曜日にやってきました。なんだかおかしい。早速いつもの薬を飲みました。本来なら次の土曜日から五日間の休日があるわけで、その間になおせるはずと見越したウィルスが久しぶりに訪れたのだと思います。ところが、いつもは避けている土曜日に、その時だけ仕事を二つも入れてしまっていたのです。東京で寝ているはずの時に京都を出て、途中名古屋で若い研究者たちと話し合い、夜は東京で絵本「いのちのひろがり」について語るという、元気ならまあまあのスケジュールです。でもその日は、薬を飲んでも8度5分の熱が下がらない状態でした。

それが失敗のもと。しかも、連休中は、ポレポレ東中野へ行って映画を観て下さった方にお礼を申し上げるというスケジュールが入っており、ベッドから抜け出しては出かけるという状態でしたから、なおるはずがありません。ウィルスはきちんと仁義を切って連休を選んでくれたのに、そこに仕事を入れていたこちらの落度です。

その結果、残念ながらメチャクチャ長引くことになりました。三週間以上たった今も咳がとれません。もっと困ったことに、味と匂いがはっきりしないのです。甘味や塩味はわかりますが、旨味がダメ。何を食べても美味しさがわからないのは辛いものですね。しかもお料理ができません。もっとも、永年の勘で調味料を入れると大体大丈夫。でも最後は家人に味見をしてもらうことになります。カレーならわかるだろうとやってみましたが、残念ながらダメでした。やっと少しづつ戻っていますが、完全ではありません。匂いの方は、キンモクセイです。いつもなら先に香りに気づくはずですのに、眼の前で咲いているのに一向に香って来ないのです。もっともまわりの人たちが、今年は香りが弱いと話していましたので、少しおかしな気候に、キンモクセイも戸惑っているのかもしれません。

普段はあたりまえと思っていることが欠けてみて、初めてありがたみがわかる。とにかく咳がとれ、味がわかる普通が一日も早く来てくれることを願っての毎日です。ウィルスとの約束事を守らなかったことを反省しながら。

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