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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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生きものは反応するもの

2015年5月1日

DNAに巡り合って生物研究の道に足を踏み入れたので、研究室で最初に出会った生きものは大腸菌でした。これが生きものであることはわかっているのですが、残念ながら日常出会う生きもののような反応はしてくれません。日常の場合、とくにイヌとは相性がよく、前世はイヌだったのではないかと思うほど、道を歩いているとあちらから嬉しそうに寄ってきます。この時、一緒に喜こんでくれる飼い主さんと、とても嫌そうな顔をする人がいます。最近嫌な顔の人がふえたような気がして、なるべくイヌとは眼を合わせないようにするようになりました。

どんどん脇道にそれていきます。大腸菌の話でした。眼には見えないし、しっぽを振ってくれるわけではないし・・・というわけです。ところが、研究を進めていくうちに、反応が見えてきました。トリプトファン(アミノ酸)遺伝子を運ぶファージ(ウィルス)の研究をしていたのですが、トリプトファンを入れたり、入れなかったりすることで大腸菌の反応が変わり、そこから遺伝子のはたらきが見えてきたのです。だんだん大腸菌とお友達気分になってきました。イモリが大好きで、イモリの細胞もこよなく愛していらした前館長の岡田節人先生は、大腸菌がお友達という感覚はどうしても分からないと首をかしげていらっしゃいましたけれど。イモリだって分からないという方もいらっしゃるでしょう。

ここで言いたいのは、少しも反応しないものとは、お友達になれないのはもちろん、関わり合いさえ難しいということです。一方、反応があれば、ずいぶん違うものとだって同じところが探せます。違うから面白いという気持にもなれます。このような関係が生きているということでしょう。それなのに、相手が何を話しても少しも反応せずに、勝手なことばかり言ったり行なったりする人たちがいるのはなぜでしょう。しかもそういう人たちが社会を動かしているのですからなんだかイヤーな気分になっています。大腸菌以下に思えるというと、そんな奴と比べないでくれと大腸菌に叱られそう。

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